×紺野向葵2

「向葵」
「えっ、あ、灯?!」
 例の自販機の前で張っていると、学校帰りの向葵が通り過ぎようとした。肩を掴んで声を掛けると、どうやらオレとは気付いていなかったらしい。
 被っていたフードを取ると、ようやくホッとした顔をする。
「なあ、今からオレん家来ないか」
 オレは再びフードを被った。向葵と会うのはリスクが高い。一応周りに目を配るが、どこかで潜んで盗み見られているような気がしてならなかった。
 クロとシロがオレを調べていた事もある。依頼者の事はわからなかったが、十中八九、向葵の関係者だろう。
 そうとわかっていながら向葵の腕を掴んでいる。危ない、やめたほうがいい。そんなリスクだって、今のオレには興奮剤でしかなかった。
「今から……?」
「そう。なあ、また、楽しいこと、しようぜ」
「んっ……」
 耳元で囁いて、軽く耳を食んだ。びくりと震える向葵。耳を抑えて顔を赤くしている。
「いいだろ? ほら、行こう」
「あ……もう、まあ、いっか」
 強引に腕を引いて歩くと諦めたらしい。向葵も歩き出した。
「灯の家ってこっちなの?」
「いや。ちょっと店寄りたいから……あ、五千円持ってる? 後で返すから借りてもいいか」
「大丈夫だよ」
 高校生に金をせびるオレはいよいよチンピラじみてる。しかも、市長様の御曹司だ。
 でも、向葵も財布から普通に五千円を取り出したし、厚みから見てもっと金を持っているに違いない。
 市長の息子ってそんなに金持ちなものなんだろうか。
 嫌味もなく金を出す様に、学校の同級生とかとはあまり仲良くなさそうだと思った。現に、前会った時も今も一人で下校していたのを思い出す。可哀想なやつ。でも、だからオレたち出会えた。

 出入り口の二つあるスーパーで酒を買い、あえて遠回りして家に帰る。万が一を考えてそんなことをして見たが、効果があるのかはわからない。
「ここ? 一人で暮らしてるの?」
「そ。たまーに兄貴が来るけど」
「ふうん? お兄さんと仲良いんだ」
「まあまあかな。向葵は? 兄弟いるんだろ」
「うん……あー、俺も一人暮らししたいなあ」
 あからさまに話をはぐらかす向葵。
「じゃあオレと一緒に住もうか」
「え? 灯と?」
 オレの提案にまんざらでもない顔をする向葵。そんな向葵に、オレもまんざらでもなかった。
 頭の中で思い浮かべる向葵との生活は、毎日セックスをするだけの爛れたものだけれど、きっと間違いなく、楽しい日々になる。
 今だって向葵をどう押し倒すか、そんなことばかり考えた。

 玄関の扉を閉めたすぐそこで、
「向葵」
と呼び、振り返る前に顔を近づけキスをする。柔らかい唇が動揺して開いたから舌を入れると、向葵の舌先が触れる。
「あ、ん、」
 照れているのか、すぐ舌が離れていく。今度は唇にチュッチュと吸い付いた。応えるようにあむあむと甘噛み。
 目と目を合わせて戯れる。可愛い向葵に貪っていると、向葵はカクンと膝から落ちそうになった。
「ひっ、あ、あ」
 咄嗟に手で支えると前屈みになって動けないようだった。
「ちゅーしただけで勃っちゃった?」
「ちがっ……んうっ」
 否定したって股間を握ればしっかり熱くなっている。手のひらで玉を下から押し上げると、抜けるような声で喘いだ。
「可愛い。向葵、ほらおいで。抱っこしてあげる」
「自分で歩けるよ」
「はい、ぎゅーって抱きついて」
「もう、灯人の話聞かないんだから」
 向葵の言い分を聞き流して、オレは向葵の背中に腕を回す。仕方ないと呟きながら、オレの身体に手足を巻きつけて抱きつく向葵が可愛い。
 向葵を持ち上げつつ、尻や背中を撫でた。
「あっ、ん、変なとこ触るなっ」
「だって向葵可愛いんだもん」
「もんじゃな……ひあっ?! っあ、グリグリしちゃだめっ、あっんん、グリグリだめっ」
 ズボンの上から後ろの穴を指で抉ると、オレに一層強くしがみついて悶える。
「あれ? 向葵もしかして自分でケツいじってた?」
「ちが、」
「え? じゃあオレ以外の男に弄ってもらったの? それとも女?」
「そうじゃないっ……んんんっグリグリしないで……うああっ」
 ドサッ、向葵をベッドに寝かせて、酒の入った袋をベッド脇に置いた。
「向葵、このまま指入っちゃいそうだよ。こんなにケツ柔らかい。誰が向葵のケツぐちゃぐちゃにしたの? 言えよ」
「んう、う、ちが……自分で、やった……」
「なんだ。じゃあ最初から言えばいいのに。ほら、泣かないで」
 向葵は手で自分の目元を隠しながら言った。手のひらにキスを落とすと、少し怯えた瞳が涙で濡れている。
「だって、恥ずかしい……だろ」
「なんで? オレのちんこの事考えながらいじった? ちゃんと上手にできた?」
 オレの問いに、今度は素直にうんうんと頷く。
「可愛い。向葵、オレのちんこ大好きだもんな」
 そういうと、向葵はチラッとオレを見て目線を逸らした。あー、こいつ本当にオレの事好きなんじゃないか。
「あ、せっかくだし酒飲もうぜ、酒。ほら、向葵も選んで」
「選んでって……飲んだ事ないし、わかんないよ」
「えー、向葵酒飲んだ事ないの? かーわいい」
「だってまだ高校生だし」
「オレは高1の時にはもう飲んだな。ほら、向葵も飲めよ。甘くてジュースみたいだから」
 さっき買った酒を手渡す。向葵は戸惑いながらオレを見た。
「大丈夫、誰が見てるわけでもないし。オレも飲もうか」
 オレも一本取り出して、カシュッと空ける。向葵の酒とコツンと当てて、かんぱーいなんてしながら一口飲んだ。炭酸とアルコールが喉を潤す。
 向葵もそれに倣って、カシュッと缶を開けた。オレと缶を見ながら、ごくっ、と一口飲んだ。
「ん、甘い……おいしい」
「だろ? こんなんジュースと変わんないんだから」
 オレが一口飲むと、向葵ももう一口飲んだ。調子の乗った向葵は、それから一本、二本と飲んでいく。

「んんー……あちゅーい……」
 とろんとした目で向葵が呟くように言った。頬も首も赤くなっていて、完全に酔っ払っているようだった。
「じゃあ服脱がせてやるよ」
 オレは飲んでいた缶を置いて、寝転んだ向葵に手を伸ばす。
 結局、ジュースジュースと言いながら四本缶を開けさせた。飲んだこと無いって言ってたし、薬でハイになってた事もあるから、酔い方は悪くないようだ。
「んんっあっちゅい、はやくーー」
 手足をじたじたさせて駄々をこねる向葵。赤ちゃんみたいに、わざと甘えてくる向葵に愛おしさを感じる。
 普段からあまり人に甘えることも出来ずにきたんだろう。そんな向葵を精一杯甘やかして、めろめろにしてやりたい。
「今脱がすから待ってな」
 ネクタイを引き抜き、上まで留められたボタンを一つずつ外していく。シャツはシワがなく、きっと毎日アイロンがけされているんだろう。
 ボタンを外し終わり、シャツを開く。日焼けしていない肌は白く、酒のおかげで赤みがさしていた。
 ふと、手持ち無沙汰な向葵がオレの腕に触れた。オレは向葵の手を取り、甲にキスを落とす。じっと見ていた向葵も手を握り返し、キスをした。次は何するの、という顔でオレをじっと見ている。
 真似というのは愛情表現の一つだと聞いた事がある。向葵もオレに愛情を持っているなら嬉しい。
 そんな事を思いながら、向葵の人差し指にちゅっと吸い付き、口に咥えた。ちゅぽちゅぽと小さく抜き差しする。
「んっ、ん、灯、えろい……」
「なんで? 指しゃぶってるだけだよ。それとも向葵はどっか別のとこしゃぶって欲しいの?」
「うんうん」
「どこしゃぶって欲しい? 言って」
「俺のちんちんしゃぶって、灯、俺のちんちんぺろぺろして、よ」
 向葵はベルトを外そうとしたが上手く出来なくて諦めた。ズボンのチャックを下ろし、萎えたままのそれを取り出す。酒のせいで上手く勃起しないようだ。
「向葵のちんこ可愛いじゃん。どこぺろぺろして欲しい?」
「んっ、ここぺろぺろして、ぺろぺろ、ちゅっちゅってして」
 向葵が先端を撫でておねだりしてくる。あまりに可愛いから言ってる事全部無視して今すぐぶち犯したくなるし、多分それでも喜びそう。
 けれど、向葵がオレの肩を掴んで頭を下げさせるから、それに従って、向葵が支える性器の先端に舌を這わせた。
「んあ、ちんちん気持ちいい!ちんちんきもちいいっ」
 向葵が大げさなくらいに声を上げた。オレは先端を口に咥えてちゅーちゅーと吸い上げる。
「あっ、ん、でるっでるでるでるっ」
 えっ、早すぎ?!口を離すと向葵はたしかに出した。じょぼじょぼと音を立てて結構な量のおしっこを。
「あー、きもちい、あー……」
「すげー派手におもらししてるな。ったく、出る出るじゃないよ」
「んんん……」
 ベッドを容赦なく汚していく向葵。おしっこをはしたなく漏らす穴を指の腹で撫でて、時折穴を塞ぐけれど、それすら気持ちいいらしい。
 出し終わった頃には、一発ヤったみたいな顔して寝かけていた。
「こらこら、寝るなよ向葵」
「んん……」
 ぺちぺちと頬を叩くが、半分眠っている向葵には効果がないようだ。まあいい、寝たままでも出来る事は出来るのだから。
 向葵の足を大きく開かせ、後ろを指でなぞる。ローションを垂らすと冷たかったのか、穴がキュッと窄まった。
 ローションを指に馴染ませながら、中指をゆっくり挿入する。にゅぷ、うまい具合に力の抜けた穴は、中指を一息に飲み込んだ。
「はは、向葵の穴今すぐちんこ入れても平気そうだな」
「ちんこほしい……」
「寝言? もうちょっと慣らしてからな」
 指を抜き差しして、人差し指を添える。もう一本いけそうだから薬指も合わせて、指三本を捻りながら入れた。
「あ……あ……」
 向葵が頭を振る。素直に指を飲み込む穴は広がり、余裕で奥まで受け入れる。
「あれ、向葵、ガバガバじゃねーの」
「あっ……んんん、はあ……」
 言いながら抜き差しすると、抜くときに締め付けて、入れるときに力を抜いてくる。間違いなく無意識にやっているだろうから、アナルセックスにおける天性の才能があるようだ。
 言うほどガバガバでもないし。
「ほら向葵、オレのちんこあげるから穴開いて」
「あ、ちんこ、ちんこほしい」
 言いながら自分の穴を、両手の人差し指と中指で左右に限界まで開く。そんな向葵が可愛くて堪らないから、数回シゴいて硬くなった自身を一息に奥まで叩きつけた。
「うあっっっ……」
 仰け反り悶える向葵の性器から少量のおしっこが漏れる。衝撃に目を白黒させている向葵を待つほど、オレにも余裕があるわけじゃない。
 ずるっ、ずぶっ。ずじゅっ、ずぶんっ。
「うあっ……ああっ」
 小便臭い部屋だけど、興奮しているオレたちには瑣末な事だった。

「ああっ! ああっっきもちいいっきもちいいっ」
 向葵は手足をオレに巻きつけしがみ付きながら、酔っ払いさながら耳元で叫ぶように喘いだ。
「気持ちいい? オレも気持ち良くしろよ、向葵、自分でちんこしごけ。ほら。中ゆるゆるだぞ」
 オレは萎えたままの向葵の性器を掴み、向葵の手に握らせる。アルコールのせいで勃起しそうにはないが。
「ん、ん、ゆるくなっい、あーっ、あー」
「緩いって、オレイけないよこれじゃあ」
「あああっ……あーっ……あー」
 向葵の性器を握り、イイところをトントンと突いてやる。向葵は仰け反り喘いだ。
 向葵ばかりずるいと思った。オレは物足りなくてイけそうにもない。もっと締め付けて、オレの事気持ち良くしろよ、と。
 そこでふと気づく。どうしてこんなに物足りないのか。後ろの穴が疼いて仕方ない。
 前の刺激だけでは足りなくなっていた事に。
「はっ、どうしよ向葵、オレ、ケツ弄らないとイけないみたい」
「ああっあーっはあはあっあー」
 気持ち良さそうに喘ぐ向葵はオレの話なんて聞いていないようだ。羨ましい。オレも中を突かれて、何も考えられなくなりたい。
「チッ……向葵掴まって」
「んんっ……」
 向葵を抱き起こし、オレに抱きつかせる。挿入したままベッドから立ち上がり、床に転がったバイブとアナルビーズを拾い上げた。
 結局歩いたら向葵の中からぬるんと抜けてしまう。若干萎えてたのもあった。
「バリタチだったのにな……」
 少しの寂しさを埋めるように、オレはローションをかけただけのバイブとビーズをいっぺんに後ろの穴に挿れた。無理やり押し開かれる感覚に、背筋がゾクゾクとする快感を持った。ずっと待ち望んでいたのはこれだ。
「はっ、はあっ、あっ、すげ……」
「灯」
 一人でよがっていると、向葵がオレの頬に手を当て、顔をずいっと近付けてくる。まだ酔ってとろけた目が、ギラギラと燃えて見つめてくる。
「一人で気持ち良さそうにずるい」
「ふっ、悪いって。ほら、オレのちんこいれさせて」
「さっきよりかたい」
 向葵がオレのを握って嬉しそうに微笑んだ。こいつも相当な淫乱になってきている。
 向葵の手に導かれるまま、向葵の穴に先端が飲み込まれた。あとはもう、突き入れるだけだ。
「あああっ」
「はっあ、あっ、向葵……っあ、」
 やっぱり向葵の穴は良かった。健気に締め付けて、柔らかい中はきゅうきゅうと絡みついてくる。
「気持ちいい、向葵っ、向葵」
「あっ、んっんっ」
「向葵、ぐちゃぐちゃにして、向葵」
 向葵の腕を掴んで起こさせ、オレに入ったバイブを掴ませる。正座のオレを跨いで座る、向葵の手がバイブとビーズをでたらめに動かした。
「あああっあーっもっと、もっと」
「ああ、んっあっ」
 向葵は容赦なく動かすから、穴が上下左右に無理やり開かれ、ずぼずぼと交互に抜き差しされた。欲しいところを全然突いてくれないと思うと、急にバイブが突き上げてグリグリと押しつぶす。
「イくっっっ」
「んっ、うごかな……」
「ひっ、あ、あっ……」
 イこうとする身体が、後ろに刺さったバイブとビーズを強く締め付けた。でも向葵はわかっていないから、動かしにくくなったバイブとビーズを無理やり引き抜き、ガチャガチャと動かす。
 イってるのに穴を馬鹿になるくらい開かれて、目の前が真っ白になるような快感に、意識が飛んだ。
 向葵の手がそれでも容赦なくおもちゃを動かすから、オレはイき続ける。
 ビイーーーーン。
「うわっ、すげ、」
「っはっあ……」
 バイブのスイッチが入り、オレは息も出来ないまま悶えた。

「はあっ……っあ、あ」
 向葵の胸に抱き付いて、泣き縋るみたいだった。頭が真っ白になって何も考えられないオレは、目端からぼたぼた落ちていく涙が射精のように感じられてただただ気持ちよかった。
 でも、向葵はそれじゃあ許してくれない。
「動いてよ灯、俺の中ぐちゃぐちゃにしてよ」
「あああっ」
 向葵の重心が後ろに向いたのか、オレは前のめりになってベッドに倒れこんだ。仰向けに寝そべる向葵に四つ這いで襲う獣みたいになっているが、どちらかといえば獣らしいのは向葵だった。
 穴に刺さって、振動したままのバイブと、ビーズをいっぺんに抜き差しされる。思わず腰を動かすと、向葵がキツく締め付けた。
「あっ、あっあっいいっ、灯っあかりっ」
「はっあ、はあっはあっ」
 汗と涙と涎を垂らしながら、腰が動いた。前から後ろからの刺激で、まるで自分の身体ではないようだった。
 イきそうになるたび、向葵の無自覚どSな手はバイブとビーズを縦方向に押し上げ、穴を思い切り広げてきた。
 どういう原理かは知らないけれど、そうされるとうまく射精はできず、中イきして、長い長い絶頂に追い込まれた。
 向葵は向葵で快感を貪り、キツく締め上げてくる。バイブとビーズを動かしてオレに腰を振れと命令する。
 中イきしながら腰を振って、何度も意識が飛んだ。ほんの少しでまた覚醒して、向葵の為に腰を振る。
 お互いに射精出来ないからいつまでも続いた。最後の方は殆ど覚えていないから、無意識のまま腰を振っていたんだろう。

 ハッと目が覚めたのは深夜二時だった。電気はついたまま、穴のバイブは電池切れで止まっていた。アナルビーズの方は抜けて床に落ちている。ベッドが臭いのは向葵が漏らしたせい。
 なにもかもがぐちゃぐちゃの部屋のせいで、なにもかもを考えるのが面倒になった。
 でも、終わりのないセックスは気が狂いそうに気持ち良かった。
「お前天才かよ、向葵」
 同じ事をもう一度、と言われたら少し悩むところだが。
 寝こけている向葵を後ろから抱きしめて、首筋や耳にキスを落とす。こんな、優等生やってただけの高校生があんなにエロいなんて誰が知るだろう。
「んん……あかり……」
 その上オレのことが好きで、セックスが好きで、ちんこが好きなんだから。
 腕の中でむにゃむにゃと寝言を言う向葵が、最高に可愛いし愛しい。
 今この瞬間は、どちらかというと心が満たされていた。
 クロ達に甘やかされたからだろうか。オレはこんな風に満たされたがっていた。
 たとえ、向葵に二度も手を出すことがどんなにリスキーな事か、わかっていても。