紺野翅庵×エピローグ

「あぁ……あー……」
 正常位でS字結腸を突きながら紅谷灯を見つめる。泣きそうな顔で喘ぐ表情は妖艶で、そそるものがあった。本能の性的な欲求に収まらない何かを、愛情などと呼ぶのだろうか。
 愛だのなんだの偉そうなことを言っておきながら、俺自身もよくわかっていない。
 逆に言えば世界のどれだけの人が正しく愛を理解しているのだろう?
 曖昧で形のないものを皆一様に共通理解していたが、それが同じものとは到底思えなかった。
 灯に、向葵を愛しているんなら、と煽られ、怒りをぶつけるように灯を抱いたけれど。
 あの時湧いたのは、どちらかといえば「困惑」の方が強かった。
 向葵の部屋に隠しカメラまで付けて監視していた。それは確かに兄弟や親族としての執着の域を越えている。
 自分のペニスでは向葵を傷付けてしまうから、と言い訳した。では今灯を抱いた後、向葵に同じ事をしたいかと問われれば、それはわからない。そもそも最初から、本当にそんな事を望んでいたのだろうか?
「あっ……んっんっ」
 キスをねだる灯に、半ば強引に唇を奪われる。泣きながらも、どこか安心したように表情が和らぐ灯を見て、何か込み上げるものを感じた。

 このベッド以外なにも無い部屋に灯を軟禁して一週間が経った。灯を抱くのは、初日を含んでこれで三度目だ。
 逃げる素振りもない灯は、とにかく快楽に従順な奴隷だった。気持ち良ければいいと言う彼は、最低限の生活とセックスさえ与えられれば満足らしい。
「まあ、正直今までとそんなに変わらない生活してる」
 むしろ飯は美味いしセックスは気持ち良いし今の暮らしサイコー、とまで言ってのける彼は生粋のヒモ気質らしい。
 二度三度と抱くのはおろか、囲うつもりなんて無かったのにどうしてこうなったのか。
「っあ、あ……はあ……はァッ」
 灯の上擦る息遣いに興奮が増して、俺のペニスが硬さを増したのだろう。それに応えるように穴が優しく締め付ける。
 愛なんていらないと言う割には、愛されるために全身で応えているようだった。他の男に抱かれ、向葵も含めてセックスして穢らわしいというのに、どこか愛おしい生き物に思える。
 そんな事を考えて、俺は鼻で笑った。
 灯じゃないけれど、楽しくて気持ちよければいいじゃないか。愛なんて哲学考えるのはやめにして。
 自分の全てを受け入れてくれる相手なんてそういないのだ。今は灯とのセックスを楽しめば良い。

 そうして、三回目のセックスを終えた翌日。灯は部屋から忽然と姿を消した。
 ベッドしかない部屋。俺も愛なんていらないと嘯いてみて、胸がズキンと痛みを訴える。でも、もうどうすることも出来ない。