紅谷金烏×銀咲イブシ×プロローグ

 雪のちらつく頃だった。ストーブの暖房では部屋全体が温まってはくれない。底冷えする冷気に剥き出しの身体は鳥肌が立った。
「ひっ」
「敏感なんだな」
「……当たり前だろ」
 背中を指でそっと撫でた金烏に抗議する。そうか、なんて言いながら金烏の手が腰に触れた。
「乳首は? 感じる?」
「いや、知らないよ。触ったことないし」
「なんだ、女に舐めてもらったことない?」
「……」
「はは、童貞? ははは、そうか」
 オレが童貞と知って嬉しそうに笑う。今日イチの笑顔に人知れずキュンとしてしまった。
「じゃあ未使用のちんこ、俺が扱いてあげる」
「言い方エロ……」
 金烏は俺の首筋に舌を這わせながら、寒さに萎えたままの性器を握った。この寒い部屋で指先までじっとりと温かい金烏だった。
「なあ、キスはしてくれないの」
「キスは、ダメ」
 即座に答えた金烏が、いたずらを思いついた子供みたいに笑った。
「童貞の処女貰うのに、ファーストキスまで貰ったら悪いだろ?」
 ファーストキスだから、あげたいんだろ。なんて、言えるわけもない。

「は……あ、あ、」
 ローションに濡れた金烏の指が、四つ這いになった俺の後ろの穴を撫でた。息を吐いて力を抜こうとするけど上手くできない。
「なんだ、舐めて欲しいの?」
「はあ? そんなワケッア、アアッ」
 指が尻を割り開き、ぬとっとした熱が穴を撫でる。鳥肌が立った。
「はっ、あっ、あっ」
 ちゅぷちゅぷと音を立てて舌が抜き差しされる。まさか、一番の親友に、世界で一番大事な男に尻の穴を舐められる日が来るなんて想像もしない。
 いや、想像くらいはした、けれど。
「ああっ、ん、あ」
 じゅぶじゅぶ吸われながら性器を扱かれるとそれだけでイってしまいそうだった。性器を扱く金烏の手に自分の手を重ねて扱く。イきたい、金烏の手の中で、イきたい。
「アアアッッあっ……っああ……」
 手を早めてイく瞬間、尻穴に指を突き立てられ、性器は根元をきつく握り射精を堰き止められる。
 一度に色々起きすぎて頭はぼんやりとした。
「ケツ気持ちいい?」
「……泣きたくなる」
「なんで」
 なんでだろうな。女も抱けずにケツを食われるから?
 いや、金烏が優しすぎるからか。
「初めてでこんな善がってるやつ早々いないぜ。イブシ、才能あるよ」
「なんのだよ」
「ケツイきの」
「……いや喜べねえなあ……」
 一瞬考えてしまったけど。なんて思っていると、二本目の指が中を拡げた。
「んあっ」
「イブシだって一瞬考えただろ」
「いや、あっ、考えた、っっけど、」
 抜き差しする指は探るように内壁を擦る。性器側の壁でその指が止まった。
「この辺?」
「なに……あ、ん、ん」
 じわりと押されたところが熱を孕んでいく。
「前立腺。男のイイところ、意識して」
「は、なんだそれ……は、あ、あ」
 性器を扱かれながら前立腺を押されると、何か達してしまいそうな感覚が僅かにあった。
 得体の知れない感覚がじわりじわりと身体中を這い上がっていく。
「あっ、あっ……んっ、はあっあ、」
 前立腺をギュウッと押され、インターバルを置いてまた押される。来る、という瞬間に腹の底に力を入れると、その感覚はさらに強まった。
「上手いじゃん、イブシならすぐにケツでイけるようになる」
「だから、喜べないって……んッ」
 指が引き抜かれていく。物足りなさに穴がパクパクして、欲しがってるのが自分でもわかった。
「ゴムある?」
「いいよ、生で」
 俺が答えると、熱が穴にあてがわれる。剥き出しの熱が、穴を押し開く。
「は……あっ、あ、」
「やっぱ才能あるよ」
 ゆっくりと入ってくる金烏を素直に飲み込んだからだろう。褒められたって、微妙なんだよ。
「ああっ、あ、んん、はあっ、はあっ」
 呼吸すら辛くなる。強烈な違和感でしかないのに、俺には愛情があったから、それだけで嬉しかったり気持ち良かったりした。
「動いて、」
 絶え絶えに求めると、いいよと言って動き出す。
 内臓を引きずり出されるような、脳天まで押し上げるような、寄せては返す波、いや、もっと強烈な。泣きたい程の。
「ああっ、あーっ、あーっ」
 喘ぎながら、ちらりと時計が目に付く。もう夜も遅い。
 まもなく帰ってくるだろうそいつを思い、心の中で舌打ちした。
 金烏は俺の中に入ってから、俺の名前を一度も呼びはしない。
 いいんだ、代わりだって。セックスしてしまえば、こっちのもんだろ。