「んん……」
股間にひんやりとしたジェルが塗られて思わず声が出る。ぬるぬると全体に広げられ、後ろの穴にまで垂れ落ちる。
「紅谷くんエッチな声出さないでね」
「無理……あん……」
「今のは作り声でしょ」
「はは、バレた」
警察病院で右手を診てくれている鳶色先生の助手のジョシュくんとは、そこそこ仲良くなりつつあった。
年も近いし、優しいし、かっこいいし、医者の端くれらしいから頭も良いんだろう。優良物件ってやつだ。
「ジョシュくん、お尻の穴にもジェル垂れててさ、オレの穴エッチだから、ほら、」
ぎこちない左手の中指にジェルをつけて、後ろの穴に差し込む。
ぬぷぬぷと簡単に入ってしまうのはオレがエッチなだけじゃなく、さっきまで鳶色先生とエッチしたからだ。
「ゆるゆるになっちゃってるね。しばらくエッチは控えたらどう?」
「先生に言ってよ」
「ははは、ほんとね」
ジョシュくんは笑いながら、オレを止めるわけでも手を出すわけでもない。ちょっと物足りないけど、こういうプレイと思えば悪くなかった。
拘置所に入れられてしばらくが経ったが、中々治らない右手のために警察病院に通う毎日だった。
セックスがしたいオレはその都度鳶色先生とセックスした。先生はその度に、オレの骨折した右手を握ってくるから中々治りが悪かった。
でも、右手を握られる痛みに失禁するのが癖になりつつあって、止められないオレもいる。
「はあ、ジョシュくん、オレ勃っちゃった。抜いてよ、ジョシュくん」
「こっちを?」
ズルッ。
「んあっ、違うって」
中に入れていた指を引き抜かれ、オレが抗議するとジョシュくんは笑った。
「そう? ごめんごめん。どこ抜いて欲しいかよくわからないから俺に教えて?」
「ん、ちんこ抜いて? 先っちょだけでいいから舐めて」
根元を支えて先っちょをジョシュくんに差し出す。間近の唇に擦り付けると口を開いて期待させた。
「ほんと、エッチだなあ」
カリッ。
「ひあっあ、あ、やっば、あー、すっけ、いい、もっかい、もっかいやって」
尿道と亀頭を軽く歯で噛まれて、先走りがジョシュくんの顔に飛んだ。今じゃ痛いくらいの刺激が大好きなオレは、きっと普通のセックスじゃ満足出来ない将来に怯えつつ、もっとと刺激を望んだ。
いいや、クスリだってあるんだし。今は今気持ち良くなる事だけ考えよう。
「だめだめ。俺は風俗嬢じゃないからね。ほら、顔汚れたから綺麗にして」
股の間に膝をついて、ジョシュくんがオレに覆いかぶさるようになった。
「わあ、なおさら風俗嬢っぽーい」
言いながらジョシュくんの顔を舐める。少ししょっぱくて、甘い気分。
せっかくだから唇を舐めてキスをねだる。ジョシュくんは微笑んで、触れるだけのキスをして離れてしまった。
ジョシュくんは優しいけれど、全てを簡単にあしらわれてしまう。もどかしくて胸がじりじりと焦げ付く。
オレの事好き?と聞いて求めてみたい。でも、きっと全人類に対してにこにこと笑いながら、好きだよと応えてくれるに違いない。
「ジェル乾いちゃったね、塗り直そうか」
ジョシュくんはそう言うと、向かい側の椅子に座り直してジェルを塗りつけた。
「んん、オレのカウパーで良くない? シゴいてくれたらいっぱい出るよ」
いたずらに言うと、相変わらず勃ったままの性器をジョシュくんが撫でた。根元から先端へ、ひと撫でふた撫で。でもそれきりで、ジェルを塗る作業に戻ってしまう。
「紅谷くん敏感だから、触ったら動いて危ないじゃない。ほら、刃を当てるから良い子にしてるんだよ」
「はーい」
完全に子供扱いされるが、剃刀の刃が肌に添えられたので静かにした。
なにも剃毛プレイの為にジョシュくんがジェルを塗りつけたわけではなかった。
刑務所では風呂の回数が週に二回か三回とか、制限されるらしい。一日置きの風呂なんて男ならしょっちゅうだし、なんならもっと入らない奴もいる。
でもオレは毎日風呂に入りたい。汗をかいて蒸れたままの生活なんて。そんな話をしていると、剃毛の事を切り出したのがジョシュくんだった。じゃあ、下の毛を剃ったら多少変わるかもよ、なんて。
「ん……」
ジョシュくんが丁寧に毛を剃っていく。右利きのジョシュくんは、左手の人差し指と中指でオレの性器を挟み、上手に避けながら剃刀を当てた。
ジョシュくんの手が滑ったり、ほんの一瞬気が変わるだけでオレの一番大事なところが切れてしまう。
そう思うとドキドキ高鳴って、性器は少し大きくなった。
でも、ジョシュくんはひたすら真剣に股間を見つめて毛を剃り落としていく。もう半分がつるつるになった。
「ジェル付けるよ」
ジョシュくんは言ってから、少し冷たいジェルを足す。股間の毛が全て無くなり、つるつるになった。
「脚上げてくれる? お尻の方も綺麗にするから」
剃刀を置いたジョシュくんの右手が内股を撫でた。オレは少し仰け反る形になり、大股を開いて全てを晒す。
「ちょっとしか生えてないから抜いた方が早いかも。抜いちゃっていいよね?」
「うん……うわ、あっ、んっ」
小さなピンセットみたいなのでぷつんぷつんと数本抜かれて、ようやく終わったらしい。
ジョシュくんは手についたジェルをタオルで拭き、それからオレの股間も一通り拭う。
「肌を保護するためにクリーム塗るからね」
ハンドクリームだろうか、手のひらにとったそれを両手に伸ばし、それから股間に触れた。
ぬるぬるとした感覚が、剃毛で晒された肌を刺激する。玉が両手に挟まれ、押し上げるように揉まれた。
「お尻の毛抜く時、お尻の穴がヒクヒクしてたよ」
「んん……」
ジョシュくんのクリーム濡れの親指が穴を撫で付けた。ぬるぬるちゅぽちゅぽと、指の腹を付けたり離したりいたずらにくすぐる。
期待したオレの穴はくぱくぱとジョシュくんの指に弄ばれている。
「まだ勃ったままだね。毛が無くてちゅるちゅるなのにこんなに大きくしちゃって」
「んっ」
ジョシュくんが先端にチュッとキスをする。オレが身悶えると、ジョシュくんがオレを見つめながら先端をチュッチュッと吸い上げる。
「精通してない男の子みたいで可愛い」
「あ……ん、ん、」
ジョシュくんが舌で尿道を刺激した。ゾクゾクと湧き上がる尿意にも似た感覚に思わず声が出る。
急に性的にテンションが上がったジョシュくんに、もしや、と思い至った。
「ジョシュくんショタコン説」
「そんなんじゃないけどね」
ジョシュくんは否定するけれど、明らかにさっきまでと様子が違う。なにより作業着の下が盛り上がっていて、熱意が違った。
「ふふ、おにーちゃん、おしっこの穴ちゅーちゅーしちゃやだ」
「うわー、あざといけど、ふふ、可愛い」
オレがクスクス笑いながらそんな事を言うと、ジョシュくんは舌舐めずりしながら今日イチの笑顔を見せた。
もう、わるいおにーちゃんだ。
「ローション無いから軟膏で」
ジョシュくんが棚から出したチューブ薬を指に出して、後ろの穴にぬるぬると塗りつける。
「紅谷くん、お尻のなかに腫れてるところがあるって言ってたよね? 今から見るからね」
「うわあショタコンの本格医療プレイやばい、変態みが増してる」
「やめる?」
「わー、ジョシュおにーちゃんやめちゃやだ、おしりの中ぐりぐりしてよ」
「三歳児かな?」
「あっんん、はあ、」
三歳児にしては開きすぎの後ろの穴に、ジョシュくんの指が二本、するりと中に入った。ああ、うん、二十一歳児にしても開きすぎかも。
「オレのケツ、ガバすぎ?」
「緩めたり締めたりするのが上手なだけで、ガバガバって事はないんじゃないかな。専門じゃないからわからないけど」
「は、なら良かった」
「ほら、お尻に集中して」
ジョシュくんがそう言うから、オレはケツでぎゅっとジョシュくんの指を締めた。なんだかいつもより中が熱い気がして、さっき使った軟膏が特殊なやつなんじゃないかと思う。
「あっ、あっあっやっ、先ばっか、ああああっ」
ジョシュくんの指が前立腺を押した。亀頭を包むように手のひらで撫でられる。気持ちいいけど射精出来なくて、ひたすら与えられる強い刺激に涙が出る。
「ああっああーっく、うっう、シゴいて、シゴいてっ」
「紅谷くんの未精通ちんちんが射精なんてしたらおかしいじゃない?」
「はあっ?! してるっ、から、先やだ、やめっ」
ビシュッビシュッと、潮吹きのなりそこないみたいなのが吹き出す。
「おもらしして可愛い」
ジョシュくんは見せつけるようにオレの先端を舐めた。仰け反り悶えるオレの身体は限界で、緊張の糸がプツンと切れる。
「はあっ、むりっ」
ぶるっ、と震えて、溢れ出たのはおしっこだった。
「あれ、本当におもらししちゃった。おしっこ気持ち良さそうだね?」
「あー、それや、あ、きもちい、あー……」
おしっこを垂れ流してる時に前立腺をぐりぐりされると、頭の中が白くフラッシュするくらいに気持ち良かった。
「タオルで拭いておこうか」
ジョシュくんの指が穴から引き抜かれる。後ろの穴が少し寂しくて、ヒクヒクしてるのが自分でもわかった。
タオルで拭いてくれるジョシュくんを見ていると、ぼーっと意識が薄れていく。
散々亀頭と前立腺だけを責められたおかげで、セックスには至っていないのに身体が泥のように疲弊していた。
ショタごっこしてたのもあってか、眠くなってきて無意識のうちに親指を咥える。
ちゅぱちゅぱすると気持ちが落ち着いて、どんどん眠くなる。
「本当にちっちゃい子になったみたい。可愛い、親指じゃなくて俺のちんこちゅぱちゅぱして?」
「ど変態のイケメン嫌いじゃない」
目の前に移動したジョシュくんの股間がズボンをこれでもかと押し上げている。布越しに一度、手のひらで撫でてからゴムを引きおろす。
現れたグレーのボクサーパンツにそのまま頬擦りしたくなったけど、ジョシュくんが物欲しそうに見つめているからそれも引きおろした。
「は……マジで変態」
思わずオレはそう零した。
布の下からぶるんと振り上げられたジョシュくんのモノは、立派さもさることながら、眼を見張るのはそこではなかった。
下の毛は一切無く、ズル剥けた性器が不似合いでいっそ滑稽に見える。
「は……すごい、なにこれ、脱毛?」
「そう。紅谷くんもする?」
「いやあ、いいです……」
にこにこ笑うジョシュくんが舌舐めずりする。もし彼が、毛のない自身を見てショタっぽさに興奮しているというのならかなりの上級者だし、危険だから社会に出してはいけないのでは。
「はい、舐めて。上手に出来るよね?」
すでにカウパーを溢れさせる先端をオレの唇に擦り付ける。毛も生えてない癖に、凶悪に育ったソレは、卑猥でいやらしい。
じゅる、先端を舌で撫でてから咥える。頭を動かして咥え込むけど、全部は口には入らない。動きの鈍い右手を添えても扱いてあげることもままならなかった。
「紅谷くんは喉で感じる?」
ジョシュくんの手が頭を撫でて、上向きに押さえつけた。はいともいいえとも答えられないオレに、ジョシュくんは慈愛に満ちた目で見つめた。
「優しくしてあげるから、頑張るんだよ」
「は、あ、おあっ」
ゆったりとした動きでジョシュくんが腰を振った。長くて熱い性器は喉奥を開いて犯してくる。
がぽっ、喉の奥につっかえて、呼吸が出来ない。ジョシュくんの指が喉を外からなぞってくる。
気持ちいいわけではなかったが、後ろの穴を使ったセックスを彷彿とさせる。
「かはっけほっけほっ」
唾液が気管に入ってむせた。ジョシュくんはそれを見守り、終わってからまた喉を犯す。苦しい。でも、喉が唾液か何かを飲み込もうと締まるところを性器で突かれると身体の奥がずくんと疼いた。
おかしくなっていく。飲み込みきれない感覚が、喉につかえる。
「おっ……うおっ……えあっ……げほっげおっげえっげえ」
優しく喉奥を突かれ、ジョシュくんは吐精した。喉に精子を叩きつけられ、噎せた勢いで胃の内容物が迫り上げた。
うつ伏せになって床に吐き出す。ジョシュくんの、背中を撫でる手が優しい。
「気持ち良かった? 少し大きくなってるね」
「は、あ、」
ジョシュくんに性器を柔く握られ、腰がカクンと抜ける。喋ろうにも喉がヒリヒリと痛くて、喘ぐので精一杯だ。
「紅谷くんのおしりの中も、さっきよりも腫れてるかもしれない。治療してあげるから、ここに座って」
「んは、あ、その設定、けほっ、ん、続いてたの」
ジョシュくんがベッドの中央に座り、オレを後ろから抱き寄せた。オレはジョシュくんに促されるまま後ろに体重をかけていく。
ゆっくりと後ろの穴を押し開かれる。
「うはっ、あ……」
しゃがんでおしっこをするような体勢で、ジョシュくんを全て受け入れると思わず声が出た。中を満たされる感覚はいつだって堪らない。
オレは今すぐ動きたかったし、ジョシュくんに動いて欲しかったけれど、ジョシュくんは後ろから抱きしめて微動だにしなかった。
「二人とも毛が生えてないからショタエッチしてるみたい」
ジョシュくんは嬉しそうに言いながら、性器の周りを指でなぞった。中でジョシュくんが少し大きくなったように思う。
オレにはジョシュくんの気持ちがよくわからないけど、オレで気持ち良くなっているなら嬉しい。でも、毛が生えてなければ誰でもいいんじゃない?なんて思いも頭を掠める。
「本当にショタ好きなんだ。誰とでもこういうプレイしてんの?」
「いつもは無駄に剃毛して遊んでるだけだけど……セックスしたいと思ったのは紅谷くんだけだよ」
八方美人な優男の胡散臭いセリフでしかないけれど、それでも気分が上がった。
「んっは、あ、もう動いていい?」
「ちょっと待って。こうしたら前立腺当たる?」
ジョシュくんがオレの玉と根元をまとめて握り、中に押し込むように動かす。圧迫されて確かに前立腺がジョシュくんに押し付けられるようだった。
「ん、ん、当たるけど、足りない」
「じゃあ動くよ」
「ひああっ、ああっ、は、はあっ、いいっ、もっと」
ジョシュくんが律動し始める。迫り出した前立腺をジョシュくんが削るように擦り付ける。引っかかりを小刻みに当てられて、切ない快感に身体が震えた。
「紅谷くん、お兄ちゃんて呼んでくれないの?」
「はは、好きだね……ん、お兄ちゃん、はあっ、きもち、きもちい、おにーちゃん、んん……」
ジョシュくんのノリに合わせてお兄ちゃんなんて言い出したけれど、口にするたびに別のお兄ちゃんが脳裏をよぎって泣きそうになった。
そうだ、オレ……オレ、兄貴に、見捨てられたんだ。
「はあ、はあっ、ん、あー、おに、おにーちゃん、もっと、もっとズンズンして」
「いいよ、ズンズンしてあげる」
性器は萎えかけたし、涙が少し出た。ジョシュくんが後ろから抱きしめてくれてて本当に良かったと思う。そんなの見られて優しい言葉でもかけられたら、オレは心が折れてしまいそうだから。
そんな感傷的な空気を誤魔化すようにおねだりしたオレをジョシュくんがズンズンと突き上げる。でも、イくには物足りなかった。いつだって強すぎる刺激に揉まれてきたオレは、ジョシュくんの普通のセックスじゃ物足りないらしい。
「痛い方がやっぱり好き?」
「え……うぐぁっっ」
後ろから押されて前のめりになり、ベッドに右手を突いた。刺すような痛みに悶えると、後ろの穴はジョシュくんを強く締め付けたらしい。
低く息を漏らしたジョシュくんがオレの中で果てる。そのまま右手を押さえつけられ、2ラウンドが始まった。
「痛いだろうに、ちんちん硬くしてる。紅谷くん、気持ちいいの?」
「はあっ、は、もっ、わかんな……」
右手の痛みを和らげようと脳内麻薬が出ているんだろう。少しクラクラして、痛いのか気持ちいいのか、いや、確実に痛みが上回っていたがそれさえ曖昧になっていた。
「あっあっ……」
「紅谷くんは俺に、誰とでもなんて言ったけどさ、紅谷くんこそセックス出来れば誰でもいいんじゃないの」
病院の診療ベッドでピロートークも中々悪くない。
ジョシュくんはオレの髪を撫でながら言った。
「……みんなが誰でもいいって言うなら、オレがその『誰でも』になりたいんだよ、きっと」
「ふうん」
「よくわかんねえや」
ナシナシ、と笑って言って取り繕う。自分自身何を言ったのかよくわからなかった。
難しい事に頭を悩ますのは嫌だった。楽しくて幸せになれるなら何でも良いんだ。オレにはそれがセックスとクスリだった。それだけなんだ。
「紅谷くんもみんなと同じものを欲しがってる」
「なに?」
「すごくすごくありふれたもの」
ジョシュくんはそれだけ言うと、オレの指に指を絡めたり、耳元や頭にキスを落とした。
初めて会った時から優しいジョシュくんで、優しくされるのが心地良かった。次はいつ、セックス出来るだろう。
「もう紅谷くんの手、見てあげられないね」
「え、何で」
「あ、言っちゃいけなかったんだっけ……まあいっか。紅谷くんの移送が決まったから。場所までは聞いてないけど」
移送、つまりは裁判が終わって刑罰が決まり、入る刑務所への移動が決まったと言う事だ。
拘置所と警察病院を往復してセックスするだけの爛れた生活も終わりという事だった。
「せっかく先生とジョシュくんと、楽しくやれてたのにな」
先生はオレと会えなくなったら寂しくなるかな、なんて思っていると、ジョシュくんがオレを見つめた。
「紅谷くんが「誰でもいい」って思う限り、誰かの「誰でも」にはなれると思うよ。可愛いとこあるから」
「ふ、なにそれ。よくわかんないけど、オレってそんなに可愛い?」
ねえねえ、とキスをねだると、ジョシュくんは額にチュッと優しくキスをしてくる。海外ドラマで子供にするような、眠りのキスみたいだった。
「そうやって素直に甘えられると、結構絆されちゃうものだよ」
ジョシュくんがオレの耳たぶを指でもにもにと押すのがこそばゆい。
小さい子供に話すように、小さい子供に触れるようにしてくるジョシュくんの本質はそう言うところにあるんだろう。
「さーて治療は終わりです。おつかれ紅谷くん」
「はあ、あんな辛気臭いとこ戻りたくない」
「まあ捕まっちゃったんだもの、仕方ないよね」
自業自得ってやつだ。
とはいえ、先生とジョシュくんの立場が高いらしく、かなり自由にさせてもらった。右手はまるで治らなかったけれど。
「俺はさ、紅谷くんが良いって、少しだけ、本当に思ったんだよ」
「うん?」
「ま、どこに行っても頑張ってね」
「ありがと」
大袈裟に別れのキスとハグをして、その場を後にする。
オレが犯罪者なんかじゃなければジョシュくんと結ばれるハッピーエンドもあったのかもしれない。でも、オレが犯罪者しゃなければジョシュくんに会えなかったかもしれない。
なんて思うと、人生はわからないものだ。一寸先は闇なんて言うけれど、兄貴に見捨てられて刑務所に入って、オレの人生なんてほんとクソみたいで笑える。
でも、この先の人生がどんなにバッドエンドに向かおうとしたって、オレはハッピーに過ごすだけだ。
どんな人生だって、頑張るよ。