×紺野向葵

 嗚呼、食べてしまいたいーーそう思うほどに魅惑的だった。
 自販機の前に立ち、こちらへ歩いてくるそいつを横目で盗み見た。
 切り揃えられたばかりの黒髪がうなじを強調する。ボタンもネクタイもきっちりと締められた制服は、身体のサイズに寸分違わず合わせられたのだろう。ぴったりとした着こなしに一分の隙もない。
 その手に持つ鞄も、背筋を伸ばして歩く姿も全てが「模範的」だった。気持ち悪い程に。
 そんな男子学生は、学生らしい快活さはまるでない、憂鬱な表情を浮かべていた。
 不満や怒りを抱えてはいても、それを吐き出す術を知らない。少し背中を叩いてやれば今にも泣き出しそうな、そんな壊れる寸前の状態。
 嗚呼、オレがこの手で壊してやりたい。泣きじゃくるあいつを、どろどろに乱れさせたい。
 どうしたら手に入れられる?なにかきっかけは……。
「あっ」
 想像しただけで興奮するオレの手は震えて、財布から小銭を落としてしまう。しゃがみ込んで拾おうとするが、指先が上手く動かず中々拾いきれなかった。
「大丈夫ですか?」
「あー、うんありがと」
 転がった一枚を手に取り、オレに渡してくる。思ってもないチャンスに、慌てたオレの手は小銭を再び取り落とした。それが良かった。
 男子学生はオレの前にしゃがみ、小銭を拾うのを手伝ってくれた。自ら罠に転がり込んでくるなんて、堪えきれず笑ってしまうと彼も笑い返した。
「なあ、それ荒天高校の制服だろ。オレもそこの卒業生」
 この男子学生ほどまじめに、ネクタイもシャツのボタンもちゃんと締めたことはなかったけれど。時にはズボンのチャックもボタンも外して、だいぶ開放的に過ごした時期もあった。
「え、マジですか」
 彼は訝しんでいる。当たり前か、進学校の荒天高校には完全にいないタイプの格好をしているし。きっと頭悪そうとか思われてるんだろう。
 まあ、あながち外れてはいない。
「ニノ先まだいる? オレサッカー部だったんだけど」
「! います、まだ現役でめっちゃ鬼顧問してますよ、俺もちょっと前までサッカー部で」
 知った名前を出すと、彼の目が輝いた。花が咲いたみたいに表情が綻んで笑顔になる。心なしか上気して口早になっている。興奮しているんだろう、オレの興奮も一気に高まった。それに同じ部活だなんて、神様はオレの味方らしい。
 でも、引っかかる言い方にオレは首を傾げた。
「ちょっと前まで? 君今何年生? 三年だとしても、まだ引退前でしょ」
「あ……えと、」
 あからさまにテンションの落ちた顔と声。ワケありらしいのは明白だった。
「なあ、せっかくだしカラオケにでも行こうぜ。気晴らしになるから」
「あ……はい」
 手を握り、そう言うと一瞬戸惑ってから頷く。泣きそうな顔が死ぬほど唆る。縋るように指先がオレの手を握り返した。
 それら全てが頭の中で性的なイメージに変わる。ああ、今すぐこの場で犯したい。全部暴いて壊してしまいたい。
 そんな衝動を押し殺して表情を作る、オレは主演男優賞モノの演技でカラオケに連れて行った。

 フリータイムでいつもの部屋に入る。ここの店長とは知り合いで常連だった。
 ドリンクバーで持ってきた飲み物を飲みながら、適当な曲を選んで歌う。こんなのはあくまで余興に過ぎない。
「へー、向葵歌上手いな」
「いや……へへ、ありがとうございます」
 今時の歌を上手に歌う。照れたのは歌を褒められたことか、それとも先程知ったばかりの名前を呼んだからだろうか。きっとそのどちらもが、慣れないというような反応だった。
「俺……この後塾だったんですけど、サボったし……こうやって放課後カラオケ来たのとかも、初めてで。だからめちゃくちゃ楽しいです」
 少し泣きそうな笑顔に、ズクンと腹の底が熱くなるのを感じた。
「向葵はさ、ちょっと一所懸命過ぎたんだよ。もっと力抜いていいんだぜ」
 肩に腕を回し、軽く抱き寄せると向葵の緊張していた身体から力が抜けた。こういう遊びごとにだって、今の今まで緊張してたんだろう。
「紅谷(ベニヤ)さん、誘ってくれてありがとうございます」
 嗚呼、なんて馬鹿な子なんだろう。そういう、健気とか可哀想な向葵を今すぐ押し倒してしまいたい。
 親切心で優しくしてると思っている向葵を裏切ったら、どんな顔して泣くだろう。

「向葵、ドリンク」
「あ、灯(アカリ)、ありがと」
 お代わりのドリンクを持ってきて向葵に手渡す。
 敬語もさん付けもやめさせて、呼び捨てで名前を呼ぶのが、戸惑いながらもちょっと嬉しそうだった。
「うわ、これ苦い! 向葵ちょっと飲んでみろよ」
「え? うっわ、ほんとだなにこれ」
「な?」
 自分のドリンクを口にして、わざとらしいくらいに声を上げた。向葵に手渡すと、ごくりと一口飲んで顔を顰める。
「適当なの入れたんだけどなにかわかる?」
「うーん……」
 向葵はそれが何の飲み物なのか、ごく、ごくと味わいながら飲む。グラスの半分も無くなって、ようやくわからないや、と諦めたようだ。
「あー、中身変えてこよ。な、後少しだから全部飲んじゃってよ」
「えー」
 えー、と言いつつグラスを空ける、向葵の頭を撫でていい子いい子と戯れる。恥ずかしそうに、嬉しそうにする。もう薬は効き始めただろうか。

 テンションの上がった向葵は頬をピンク色に染めて、アレコレと曲を歌った。
 今時の流行りの曲を歌っていたが、少しマイナーな曲も歌い出した。知らない歌だったが、女声の高い音も綺麗に出している。何より、ソファーの上で歌ったり汗だくになって微笑む姿にはなかなか唆るものがあった。
「向葵、暑いんじゃないか」
「あー、そうかも。なんかめっちゃ楽しくて」
「上着脱いだら」
 そう促すと、おぼつかない手付きで制服のボタンを外し、ソファーに放り投げる。
「灯は? 暑くないの」
「暑いかも。向葵、脱がせてよ」
「え?」
 よく分からなかったのだろう、聞き返す向葵の腕を取り、オレの膝に跨るように座らせる。シャツの裾を掴んで向葵の手に渡した。
「ほら、早く」
「あ、うん」
 少し頭の緩くなった向葵は、薄っすら汗ばんだオレのシャツを少し雑に脱がせた。すぽんと、頭が抜けると、とろっとした目の向葵が見つめてくる。
「向葵も、脱がせてやるよ」
「うん」
 ワイシャツのボタンを一つずつ外していると次の曲が流れ出した。少ししっとりとした曲だが、若者向けの恋愛ソングだ。
「あれ、こんなの入れたっけ」
「入れたの忘れた? 歌始まるぜ」
 イントロが終わると慌てたように向葵が歌う。
 持ち歌ではないのだろうけど、そつなく歌いこなす向葵の声に聴き入りながら、オレは手を動かした。
 胸元がはだけたワイシャツに手を差し込み、ツンと形を尖らせる向葵の乳首を押しつぶす。
「っ、それーーでーもーー」
 くだらないいたずらだと思っているのだろう。一瞬声を詰まらせたが、すぐに曲に戻る。後ろにある画面をチラチラ見ながら、オレが次になにをするのか目が離せないらしい。
「んっ……ああーーどうしてーー」
 無防備な首筋に噛み付くと痛みに眉を顰めた。
 流行りの曲にはあまり興味がなかったが、オレはこの曲がお気に入りだった。挑戦的な歌詞に、泣き喘ぐように音を伸ばすメロディ。
 それを耳で堪能しながら、向葵の乳首に舌を這わせる。
「アアッ! あ、灯っ」
 背を仰け反り顔を赤らめる向葵を一瞥して胸に吸い付く。
「ああ、あっ」
 された事のない刺激に、向葵は涙目になりながらオレの頭を抱くようにする。やめて、やめてと小さく言ったから、乳首に歯を立てる。一際びくりと跳ねると、腹部に熱いものを感じた。
「あ……んあ……」
 薬の影響で射精はおろか、勃起もしないはずだ。向葵の股間を見やれば、少し濡れてシミが出来ていた。どうやら少し小便を漏らしてしまったらしい。
「痛かった? 痛過ぎて気持ち良かった?」
「ん、わか、わかんな……」
 狼狽える向葵をソファーに押し倒し、上から覆い被さる。
 すっかり疎かにしていた曲も終盤に差し掛かっている。向葵の手を握りマイクを持たせ直す。
 オレはここからのフレーズが好きだった。
「ほら、向葵、ラスト歌って」
「……もく、きみのくちづけでーー」
 歌に合わせて唇を重ね、言葉を奪う。オレの口づけでゆっくりと落ちる向葵と、ずっと見つめ合った。
 まるで恋に落ちているみたい。

 筋肉の薄い腹に舌を這わせると、あ・あ、と甘い声を上げた。ズボンを下ろしボクサーパンツの上から股間を撫でると、萎えたままのソレだったが向葵は気持ち良さそうに身体を震わす。
 この部屋にある足置きのような小さな椅子は物入れになっていて、中にはオレの荷物があった。
 ローション、コンドーム、ローター、その他色々。ソファーに腰掛けて荷物を探っていると、向葵の足がオレの脇腹をなぞり、つまらないと煽ってくる。
 半分脱げたパンツ、シャツの下は汗と唾液で濡れた肌と乳首、物欲しげに指を咥える向葵は、欲情して潤んだ目をしている。
 下手なAVよりよっぽど抜ける。オレは携帯で何度か写真を撮り、向葵に向き直った。
「向葵、ローションかけるからパンツ脱いで」
「ん……やだ」
 さっきまで乗り気だったのに、向葵は股間に手を当て、膝を寄せて嫌だと拒否する。
「なんで? ちんこ気持ちよくなりたいんだろ」
 足の間から股間に触るのは容易で、指で撫でる。足がオレの腕を締め付けながら、向葵は腰を揺らし声を上げた。
「だって俺包茎だから、恥ずかしい」
「包茎? 仮性だろ。日本人のだいたいはそうだぜ」
 オレは違うけど。思春期特有の悩みを笑い飛ばすと、足の力が弱まる。オレはその隙に膝を掴んで足を開かせた。
「いつもどうやって皮剥いてんの、オレに見せてよ、向葵」
 股間に置かれた向葵の手を撫でると、おずおずとパンツをずらし、性器を握る。
 指と性器にローションをかけると、それを馴染ませるように軽く扱く。向葵は亀頭を手のひらで数回擦り、カリのあたりを握って一気に剥いた。
「なんだ、ちゃんと剥けてんじゃん。掃除も毎日してるんだ」
 仮性だとカスが溜まりやすいが、それもない。剥けたばかりの亀頭を指で撫でると少量のおしっこが飛び出す。薬のせいで勃起しないが、感覚は数倍になっている。ただでさえ敏感な亀頭をこれ以上触ったらどうなるか、なんて目に見えてる。
「先っぽ気持ちいいんだ? ほら、イっちゃう?」
「あっあっ待ってなんか、なんか変っちがう、あああ」
 見開いた向葵の目がぼろぼろと涙を零す。刺激が強すぎて生理的な涙が出ているんだろう。
 ローションまみれの向葵の手が、オレの手を掴んで懇願する。それでも止めずに亀頭を撫で続けると、向葵は仰け反る。
 尿道口から勢いよく潮を吹いた。おしっこでも精液でもないそれは、向葵の身体を濡らしていく。
「あー……あー……ああ、ああもう、あっああ」
 全身を硬直させて潮を吹いた向葵が身体を弛緩させた。それを見ながら再び亀頭を撫でると頭を振る。
 オレの腕を剥がそうと強く握ったり爪を立ててくる。それでも二度目の潮吹きはもっと早く、量を減らして始まった。
「向葵、もっと気持ち良いことしよう」
「もっとしたら死んじゃう」
「大丈夫だって、気持ちいいだけだし。それに気持ち良いまま死ぬなら別にいいだろ」
 納得したのかしないのか、向葵はクスクス笑った。

 二本の指で内壁を押し開く。目当ての、柔らかいそこに辿り着くと向葵の性器がヒクヒクと動いた。
「ここが向葵のイイとこか」
「あー……あー……」
 はっきりと気持ちいいとはまだわからないようだが、押し上げるとその違和感に声を上げた。
「今の場所覚えたか?」
 指で挟んでクリクリと刺激すると、泣きそうな顔で頷く。
「偉い偉い、向葵は賢いな」
 そう言って頭を撫でると、猫のようにもっとと頬を擦り付けてきた。
 そんな向葵に構いながら、中に入れていた指を広げながら引き抜く。名残惜しげに糸が引いて切れた。
 遊びを知らない穴だと言うのに、息衝くたびに赤い内壁が覗き、まるで誘うようにヒクヒクと蠢く。いやらしい穴だった。
「向葵、さっきの場所教えて。オレのちんこに」
 オレはソファーに座り、向葵の身体を抱き起こして膝に跨がらせる。前を寛げ開放したオレの性器は、薬のせいで勃ちが鈍いかもと思ったが数回扱くと完勃ちしていた。
 散々向葵を弄って、オレの興奮も収まりがつかなくなっているよう。
「はあ……ん、灯の……」
 向葵が後ろ手にオレの性器を握り、確かめるように上下になぞる。勃ち上がったソレに嬉しそうに微笑む向葵を、今すぐブチ犯してやりたい。
「向葵、焦らすな」
「ごめ……ん、ん、入るの……?」
 穴にひたりと先端があてがわれる。向葵が不安そうに呟いたが、そんなの杞憂だった。
 柔らかい向葵の尻肉を掴み、指を穴に添わせて横に優しく開く。グパッと開いたそこは、素直にオレを飲み込んだ。
「あ……ひあっ、ああっ」
 亀頭さえ飲み込めば後は重力に従うのみだった。ゆっくりと降りてくる天使に抱かれるように、オレは向葵に包まれていく。
「向葵、どこまで欲しい?」
「はっあ、あ、全部、灯のが欲しいっんああっ」
 腰を抱いて奥まで突き上げる。最奥がきゅんきゅんと鳴くように締まった。
 そこからはもう、獣みたいに乱れるだけだ。
 突き上げるたび向葵が鳴いた。引き抜くと嫌がるように向葵は締め付ける。イイところを責めてやれば仰け反り喉を晒して喘いだ。
「あっ、あ、あっ、ああっ」
「気持ちいだろ、向葵、なあ、ほら、」
「ああっああああっ」
「くっ、う、」
 ナカが痙攣して、その気持ち良さにオレもイった。
 もう何度イったか、互いに分からない程果てている。
 薬のせいで勃起しない向葵は、それでも何度も中イきを繰り返す。イってもイってもオレが終わらないから、向葵は顔を真っ赤にして喘ぎ続けた。
「オレのちんこ気持ちいい? なあ、向葵、セックス、気持ちいいだろ」
 快感に咽び泣く向葵は頷きながらまたイった。その痙攣でオレも果てる。白濁に濡れた内壁に塗り重ねて吐きつける。向葵の意識が飛んでからも、オレは何度か中で果てた。

「はあ、最高だったよ向葵。またしてえな……出来るかな?」
 カシャ、カシャ。携帯のカメラで向葵を撮る。ヨダレと涙でぐしゃぐしゃの顔も、オレの精液を吹きこぼす穴も。孕んだみたいに膨れた腹はどこか愛おしくて、まるで子供がいるみたいに撫でる。
「またセックスしような、向葵」
 眠る向葵にちゅっとキスをする。
 それから名残惜しさにうしろ髪ひかれつつ、オレは部屋を後にした。