浅葱愛露×

「おはよう灯、朝だ」
 ベッドの端がギジリと軋み、耳元に低い声が甘く囁く。
「んん……まだ寝たい」
「だーめ」
 眠たさに、寝返りを打って背中を向けると手が肩を掴んだ。少し笑うような声で咎めて、降ってくるのはキス。
「灯」
「んん……」
 服の裾から手が入り込み、骨盤からのラインをいやらしく撫で上げる。身体がぞくりと震えて熱くなる。
「起きないと怒られるぞ、おやっさんに」

 憧れるような甘くとろける朝だったが、ここは二人の愛の巣ではないし、オレを優しく起こすそいつも恋人ではない。
 ここは刑務所。同室の浅葱愛露は毎朝キスでオレを起こした。
「別のとこ起きたんだけど」
「指貸そうか」
「うぇーい、おなしゃす」
 起床時間にはまだ早く、騒ぎ過ぎればおやっさんーー刑務所でオレたち囚人を厳しく監視・取り締まりする看守、刑務官ーーにばれてしまう。
 バレてしまえば、こんな最高の同室者と引き離されてしまうし、最悪懲罰も食らってしまう。
 そんなのはごめんだから、ひっそりコソコソと事を済ますのだ。
「せっかくパイパンだったのに、伸びてきたな」
 ズボンを下ろしてしゃがむと露わになるのはジョシュくんが剃ってくれた股間の毛。それはもう伸びていて、一、二センチ程になったのを愛露がショリショリとなぞる。
「は、声出ちゃう、塞いで」
 愛露に強請る。トイレは個室ではなく、仕切りはあれど上半身は丸見えだった。
 愛露は仕切りの上から腕を伸ばし、便器の前に指で輪っかを作った。オレはそこに自身を差し込み、ゆるゆると腰を動かす。愛露の手が首を撫で、オレたちはキスをする。
「ん……ふ……」
 親指と人差し指、たった二本に翻弄される。キュッと締めた指に絞り上げられ、イきそうになると緩められる。
 早くイかないと労働の時間になってしまう。焦るオレを笑い、口内すらも弄ぶ愛露に、オレはもうめろめろだった。
 ビュクッビュクッ、愛露の指が締め上げ、最後の一滴まで便器に吐精する。唇が離れたあとも余韻でぼーっとした。
 愛露とのキスはいつもそうだった。

 愛露はどうして刑務所にいるのか疑いたくなるほど、こんな環境の中においても真摯な男だった。鳶色先生に散々痛めつけられて右手が上手く動かせないオレを、愛露は心底優しく世話を焼いてくれた。それだけじゃない、刑務所でのルールや生き方、厄介なやつらに目をつけられないようにと色々してくれる。
 そして時折口にするお互いの過去に触れて、心の深いところに触れた。
 恋人を亡くして自暴自棄になり、事故を起こしたという愛露。今でも恋人を亡くした痛みに、憂いを帯びた表情を浮かべる。
 今でもその恋人を好きなんだろう、と言うのが伝わった。そんな愛露が羨ましかった。愛の深さに、オレは心惹かれていった。
 どちらからともなく、慰め合うようなキスをした。優しくて悲しいキスに思えた。それも繰り返すうちに、もっと違うものになっていた。
 多分これが恋とか愛なんだろう。
 労働の休憩時間、あるいは夜の自由時間。誰にも気付かれないようこっそり手を繋いだり、刑務官の目を盗んで触れるだけのキスをしたり。
 まるで高校生の甘酸っぱい青春のような、そんな秘密の関係をコツコツと積み重ねた。

「愛露も抜いてあげようか」
 自分の中指をチュッと啜り、愛露の股間に触れる。すると愛露はすぐに手を重ね、そしてやんわりと退けた。
 指を絡めて恋人繋ぎしながら、誤魔化すようにキスされる。
「俺は大丈夫だからいいよ。灯だって、食事前は嫌だろ?」
 オレは別に構わないけど。そうやって無理にしても良かったけれど、オレはおとなしく納得する。
 愛露の性器はまるで勃つ気配はない。どんなにキスをしてそれらしい雰囲気になっても、勃つのはオレだけだった。
 はっきりとは言わないけれど、愛露はEDなんだろう。そうと言ってくれればオレも落ち着くけれど、愛露はいつもはぐらかすから、その優しさが突き刺さった。
 まるでオレだけ恋い焦がれているようで、少しだけ虚しくなる。

 刑務所では強制労働が課せられていた。その労働する場所は工場と呼ばれ、多岐にわたる。
 愛露は図書工場と呼ばれる、刑務所内の図書室が担当だった。図書工場では本の貸し出しや、購入願箋の処理でパソコンを使ったりする、エリートが入れる工場だった。
 それに比べてオレは刑務所内の掃除や整備が担当の内装工場だった。最近は花壇の手入れや草むしりばかりで腰が痛くなるような地味な作業が多い。
 刑務所の作業といえば何か物を作ったりするイメージがあるが、それは一般工場と呼ばれている。
 オレや愛露がしているのは所内運営のための工場だ。一般工場と比べるとそこまで厳しくされないし、刑務官の部下みたいに扱われる。愛露の工場に至っては信頼された優秀な人間しかなれないから、つまり愛露は刑務官からも信頼されているという事だ。

「じゃあいってきます」
「オレも」
 互いに別の工場になるから、いってきますと言葉を交わす。さすがに人の目があるから行ってきますのキスはしないが、下ろした手の甲をコツンと当ててキスの代わりをした。
 そんな行為の一つ一つがすごくくすぐったい。まるでおままごとみたいだった。
 でもオレの人生で一番、人間らしい営みをしている気がする。
 
 汗が肌を伝い、地面に落ちる。蒸し暑い季節になった。
 刑務所にあるグラウンドにしゃがみ込んで、黙々と雑草を抜く。時折立ち上がって背中を伸ばしたいが、刑務官の目は厳しく、そんな些細なことでも「サボるな」と叱られる。
 狭いところに閉じこもって作業するよりはよっぽど風通しが良かったが、キツいのはどこも変わらなかった。
 でも愛露は空調の効いた図書室で座って作業しているのだから、それはちょっと羨ましいと思う。
「紅谷」
「はい!」
 いつの間にか、作業を監視する刑務官がオレの後ろに立っていた。名前を呼ばれたらすぐに返事をしなければいけない。
 慌てて立ち上がり、後ろを振り向くと立ちくらみがした。
「ちょっと来い」
「はい!」
 刑務官は指で来いと示し、それから歩き出す。オレは黙って後ろをついて歩いた。冷静を装うように注意はするが、他の受刑者にもバレているだろう。
 これはつまり、刑務官への特別なご奉仕の合図だった。

「はっ、ん、ん、」
「は、相変わらず美味そうにしゃぶるな?」
「んん、」
 じゅぼじゅぼと音を立ててしゃぶると、刑務官が頭を撫でた。刑務官だって鬼ではない。素直で、真面目で、従順で、ちゃんと言う事を聞けばこうして褒めてもくれるのだ。
「ほら、出すぞ。一滴も零すなよ」
「んぐっ」
 刑務官がオレの頭を掴み、より一層深く喉を突いた。それからびたびたと喉に精液を叩きつけられる。
 言われた通り一滴も零さないよう吸い付いて、必死に飲み下した。精液は濃くて、数日溜めこんだのがうかがえた。
「綺麗にしろ」
「はひ」
 先端を吸い上げてから竿に舌を這わせる。刑務官サマの可愛い性器は丁寧に奉仕すればまた硬くなった。これで犯されたら……そんな妄想に、身体の奥がズクンと疼く。
「おいおい、しゃぶるだけで勃たせるなんてお前は本当に変態だな」
「あぐっう、」
 盛り上がった股間を踏み付けられて悶える。刑務官の足の下で熱がさらに上がった。
 愛露の優しい愛撫も好きだった。心が満たされるようだった。いや、本心から、満たされていると思っていた。
 でも、結局この強い刺激には敵わないのだ。
 刑務官がオレの股間をぐりぐりと押し潰す。オレは刑務官の足を抱いて、膝にキスをする。忠誠とか、そんな気持ちを込めて。
「はあ、あ、せんせ、オレもっと、もっと気持ち良くなれる穴、知ってるんですよ」
 先生も知ってるでしょう?そう期待の目で見つめる。
 もうずっと欲しかった。愛露が勃たないとわかってから余計に欲しくなった。後ろが疼く。今すぐにだって犯されたい。求められたい。
「それはお前がもっと気持ち良くなる穴だろ? ダメだな、お前は奉仕する事だけ考えてろ」
 ほら、口を開け、そう言われて素直に口を開く。刑務官はにやにやと笑った。
 緩く勃ち上がったそれでまた喉奥を突かれる。二度目の射精には早すぎて、刑務官のにやにや笑いの意味を察した。
 じょぼじょぼと注がれるのは精液とは違うものだったが、それも飲み込む。直接喉に注がれたから、味わわなくて良いのが幸いだ。
「今日は中までしっかり洗っておけよ」
 ケホケホと咳き込んでいると、首の後ろ側を掴まれ立たされる。刑務官が言いながらオレの尻を叩いた。
「もう戻れ」
「けほっ、はい!」
 今日は二日に一度の風呂の日で、中まで洗えとはつまり、尻の穴まで洗って、その時に備えておけと言う意味だ。
 お堅い仕事の刑務官サマだって人間で変態なんだ。割りと幸せな監獄生活を送っているのが笑える。

 世の中がどれだけLGBTだ人権だ、と叫んだところで、こんな閉鎖空間でそれが真っ当に守られるわけではない。
 そもそも、真っ当な筈の世間様だって、平気で人を踏みにじる事もあるわけで。
 この狭い檻の中で、ゲイバレすることはあまり好ましくなかった。他の囚人を従えるヒエラルキーの頂点がホモフォビアだったりすれば、ストレスの捌け口として暴行を受けることだってある。理由にならない理由でも、拳を振るうきっかけには十分なのだ。
 陰で蹴られたり小突かれたり。刑務官は何をしているのか?バレなきゃ問題ないし、彼らだってホモフォビアかもしれない。
 そんな世界でオレが悠々自適な性活を送れているのには主に二つの理由があった。
 一つ目は刑務官様に気に入られている事。良い子にしていれば、言うことを聞けば可愛がってくれる。この刑務所は初犯や軽犯罪で捕まった人間が多いから、なおさら甘めの刑務官が多いらしい。
 そして二つ目は、そんな刑務官様に一等気に入られている愛露に気に入られていること。
 愛露はオレのようにご奉仕しているわけでは無いらしいが、優秀で賢く模範的な態度、それらを嫌味なくこなす好青年的なところが良いのだろう。
 仕事の時は担当刑務官、それ以外の時は愛露と一緒にいれば、他の囚人に絡まれることも無かった。
 他の囚人に絡まれるにしても性的に襲われるならオレとしては悪くないが、ストレートに殴る蹴るの暴力を振るわれる方が多い。クスリも無しに痛いだけでイけるほどではないから、ただの暴力はごめんだった。

「灯、今日なにかあったか?」
「んー? なんも、いつも通り(刑務官のちんこしゃぶったくらい)だけど」
「そうか。念入りに身体洗ってたみたいだから」
 就寝時間になり、ベッドで目をつぶっていると愛露がオレに聞いた。
 念入りに、と言っても入浴の時間は限られていて、ほんの少し尻周りを丁寧に洗っただけだった。そんなところも見逃さない愛露の執着に、身体がぞくりと震える。
「そう? 今日暑かったから」
「ああ、日差しがきつかったからな」
「愛露はクーラー効いてるところで作業だろ? 羨ましい」
「灯もこっちに来ればいい」
「簡単に言うなあ」
 くすくす笑って愛露の方を見ると、暗闇の中で鈍く光る愛露の瞳がこちらをじっと見ていた。
「本当に何もなかった?」
 執拗に聞いてくる愛露に、少しだけ恐怖を覚えた。口元は笑っているように見える。でも目が少しも笑っていない。
「……無いよ、いつも通り」
「そうか。なら良い」
 愛露が仰向けになって目をつぶったから、オレもそれに倣う。
 嘘はついていない。だって刑務官へのご奉仕なんて、いつもの事だから。

「紅谷」
「はい!」
 曇りがちな空の下、ジメジメとしたぬるい空気に汗をかいていると刑務官に呼ばれる。
「来い」
「はい!」
 いつものように物陰に連れて行かれる。
「ちゃんと洗ったか?」
「はい!」
「じゃあ舐めながら、ケツの穴を慣らすんだ」
「はい!」
 チャックを下ろして取り出した刑務官のソレを咥えて、右手で扱く。昨日の今日だったが、すぐに硬くなる愛しいそれに丁寧にキスをした。
 オレは左手の指を軽く舐めてからを後ろに伸ばし、狭い穴にねじ込む。最近使っていないから慣らすのに時間がかかりそうだ。
 最悪無理やりぶち犯してくれたっていい。それとも一回口でイかせて、精液を潤滑油にするか?
 なんて楽しい妄想に耽っていたから気付かなかった。
 ザリッ、その足が砂利を踏む。ごく間近に迫るまで少しの気配も無かった。
 気付いた頃には終わっていて、いや、始まったのか。
 赤い雨が降り注ぐ。
 刑務官がその場に崩れ落ちるのを、ただ見守るしかなかった。刑務官の後ろに立っていたその男が、鈍く光る目でオレを見ている。
「……愛露、なんで」
「なんで? こっちが聞きたいよ。お前、何してんの」
 血まみれの手がオレに伸ばされた。刑務官を跨いで、オレの首を掴む。
「そんなにちんぽ欲しかったのか? いつも物欲しそうにしてるの知っていたけど、こんなアバズレだと思わなかったよ。ああ、でも、刑務官に命令されたら逆らえないか? 違うよな。嬉しそうにケツ振って、犯してくれるなら誰でも良いんだろ」
「くっう……」
 掴む手に力が入って、声が出なかった。苦しくて頭が回らない。
 でもオレは笑った。言い訳のしようもない。だって、愛露の言うことは全てその通りなのだから。

 愛露の向こう側でビクビクと震えて死んでいく刑務官が恐ろしかった。
 その一方で、こんなにも愛露はオレの事を愛してくれているのかと、喜んでいるオレがいた。
 もっともっと愛して欲しい。
「そうだよ」
 死ぬほど愛してるって、こう言う事か。
 音にならない声で言うと、愛露の表情が歪んだ。

 一瞬、首を掴む手の力が強まってミシッと骨が軋んだ気がした。それから手は離れ、肩を掴んだ愛露がオレにキスをする。
 さっきまでの事なんて忘れそうなほど、優しいキスだった。
「そうだな、俺が悪かった。寂しい思いさせたんだ。でも、もう大丈夫だから」
 心底申し訳なさそうにして、それから優しく微笑む。
 大丈夫ってなにが?アンタのちんぽは不能だろう。そんな言葉が喉まで出かかったが、声帯がやられたのか声がうまく出なかった。それで良かった。
「灯、作業着脱いで」
 さっそくここで?やる気満々じゃん。すぐ見つかりそう。そう思うけど、愛露の手に促されて作業着を脱ぐ。
 上衣とズボンを脱ぐと、それでいいよと脱ぐのを止められた。後は、シャツとパンツ、靴下と靴だけの姿になる。
「灯、勃ってる。ほんと淫乱だな」
 緩く勃ったオレ自身がパンツを押し上げた。愛露がそれを指の背で撫でる。
「ふっ、あ……そんなオレが可愛いんじゃないの」
 自分から愛露の手に擦り付けて、耳元で甘えた声で言う。声は掠れて途切れ途切れになったが、十分聞こえたらしい。
「そうだな。でも、盛るのはまだ待て。それくらい出来るだろ」
「ん……」
 優しく窘められ、オレは頷いた。でもそんなに悠長にしてる時間はない。刑務官が一人死んでいるのだ。少なくとも昼の休憩時間にはその刑務官がいない事が確実にバレてしまう。
 そんな心配をよそに、愛露は上衣を脱いで手についた血を拭い捨てる。
「よし、行こう。いいところを知っているから」
 愛露の手がオレの手を掴んだ。
 どう転んだってバッドエンドだろうけど、愛の逃避行に心は躍る。

 愛露に連れられ、たどり着いた先は刑務所の屋上だった。
 屋上と言っても、整備された場所ではない。屋根を乗り継ぎ、壁に設置された途中までの梯子を無理やり登った先だ。
 落下防止の柵にもなければ、ただただコンクリで作られただけのそこに押し倒され、愛露と熱烈なキスをする。
「は、っん、んっ」
 こんなもの、いつもしているのとなにも変わらない。でもいつもと違う事があった。
 オレに跨る愛露の、いきり立つ熱が当たる。今まで愛露から感じたことの無い、オレが求めて止まない熱だった。
 それに気付いたオレに、愛露が気付く。フッ、と笑い、オレの手を取ってそこへ導く。
「灯が欲しがった物だよ」
 作業着の上から握るとたしかに熱く滾っている。
「は、愛露、直接触っていい?」
「いいよ、好きにしてごらん」
 許しをもらったオレは、愛露の作業着とパンツを引き下ろした。待ってましたと言わんばかりに、愛露が勢いよく飛び出す。
「すっご、ガチガチじゃん」
 左手で握り、愛しいそれにキスを落とす。
 熱く滾った愛露はカウパーを垂らして、熱が迸るようだった。それだけでオレのテンションも上がる。
 舌でねっとり舐めあげ、先端を咥えながら竿を扱いた。
「ん……」
 愛露の感じている声にゾクッとした。結局いつも気持ちよくなっているのはオレだけだった。ようやく、愛露を気持ち良くさせられたのが嬉しいし楽しい。
「灯、ケツこっち向けて」
「ん」
 腰を撫でられ促される。愛露の腰を跨いでシックスナイン。
 オレは膝を立ててこれでもかと尻を晒す。愛露ならやらしいオレも丸ごと愛してくれた。
「綺麗だな」
「全然使ってないからな」
 愛露の指が尻肉を割り開き、鼻息が穴にかかる距離で言った。期待で穴がヒクヒクしているのがわかる。
 少し恥ずかしかったが、愛露だってガチガチのとろとろだった。可愛い。愛しいそれにキスをする。
 真似するように愛露が、尻肉にちゅっ、とキスした。それから淵を、ひだの一つ一つまで丁寧に舐めてくる。
「ひぁ……」
 愛露の舌は躊躇なく穴に挿入された。それだけで仰け反るくらいに身体が反応する。
 舌は出たり入ったりして壁を舐めた。内臓を晒す羞恥に駆られながら、愛されている感覚に陥る。
「んっ、あ、あ、」
「灯、手、止まってる。俺のもちゃんと舐めて」
「ん、ん、ごめん」
 愛露を握って舐めてしゃぶる。上顎に当たると背筋がゾクゾクした。じゅぱ、じゅぱ、わざとらしいくらいに音を立てると、愛露も激しくなった。
「ん、んんっ、んっ」
 愛露の指が入れられる。長い指が奥まで入り、追って二本目が続いた。指はバラバラに動いて中をかき混ぜ、やがて、内壁の良いところを突いた。
「おっ、ふっ、ふあっ」
 前立腺ばかりを責められて、その度に頭が真っ白になった。久々の挿入が嬉しすぎて身体の感度が増してるのかもしれない。
 それとも単純に薬を盛られた可能性もある。どっちだって良かった。
「んあぁっ、だめ、イくっ、イっちゃう」
「いいよ、俺も一回出すから」
 イったらもう勃たないなんて事ないよな?そんな心配をよそに頭を押さえつけられ、喉奥に愛露を突き立てられる。
 少し苦しいくらいが丁度いい。愛露がイって、オレも中でイった。喉を通る愛露の熱い精液を飲み干す。濃くてトロトロで呑み下すのが難しかった。
「挿れるよ」
 余韻に浸る間も無く、うつ伏せになった俺に愛露が跨る。まだ中が痙攣しているオレの穴を、固いままの愛露がゆっくり侵入する。
 それだけでオレは泣きそうになった。
 ずっと欲しかった熱だ。待ちに待ったそれを感じるだけで身体はビクビクと反応して悦ぶ。
「はあ、はあっ、ああっ、っ」
 押し出されるように息を吐いて、その吐息すら色付いて蕩けているのが自分でもわかった。
 狭い穴を押し開かれる。期待していた熱は今までの誰よりも熱く、硬く、気持ちいい気がした。
 一番深くまで入っても愛露はすぐに動かなかった。まるでこの時を楽しむみたいだった。
 オレはオレで、動かれたらすぐイってしまいそうだった。もどかしいけれど、胎内でドクドクと脈打つ熱を感じ取れるようで悪くはない。
 ああ、愛露がオレの中にいる。
「愛してる」
 優しく囁いて、肩に唇を押し当てた。ちゅ、ちゅっ、啄むみたいにキスをする。
 口に欲しい、キスがしたい、何も考えられないくらいの深いキス。
 でも願い通りにはいかない。愛露はゆっくりと動き出す。抜け出ていく感覚に背筋がゾワゾワした。
「ん……っあ、っく、ああッ……」
 深く、浅く、一つ一つのストロークが長い。出ていくのも深くまで入ってくるのも、永遠に続くのでは?と不安になりそうだった。そんなわけはないのに、そんなわけないと考える脳は働いていない。
「はあっっ……く、ううっ」
 段々意識が薄れていく。首に当てられた手が優しく頸動脈を抑えていた。
 ズンッ……。
「ひぐっあ、くはあっ、あっ、あっ、」
 深く突き上げられた時に頸動脈を抑える手も緩んだのだろう。ふわふわとした意識が少し戻って、強い快感に脳は混乱した。
 そんなセックスはずっと続いた。意識が飛ぶ寸前の、まどろみに落ちるあの気持ちいい感覚。そこからまた前立腺や性感帯ばかりを責め立てられ、物理的な快感に殴られるようだった。
 よだれを垂らして、呼吸をしてるのかすらわからなくなる。
 首を絞められ仰け反りながら、青い空が遠くなったり近くなったり。気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい!
 ドクンと中を熱が満たした。オレの穴も応えるようにビクビクと痙攣した。その穴を愛露の肉棒が掻き乱す。まだ萎えない愛露が愛おしくて穴を締めると、愛露が小さく喘ぐ。
 もっとオレで感じて。もっとオレに感じさせて。
 そんな事を願ううちに世界は曖昧になった。

 次に目が覚めた時、オレは愛露に抱かれて屋上の端っこに立っていた。
 足元にはグラウンドとコンクリが見える。草木の花壇が僅かに目に入った。
「二人で永遠に幸せになろう」
 愛露はオレの肩を抱き、優しくキスをする。
 なあ、愛露。オレとあんたじゃ幸せになれない。
 愛露の言う二人に、オレは入っていない。
 だって挿入してから一度でもオレの名前を呼んだ?顔を見てキスをしてくれた?
 首を絞めたのだって。これから行きたい場所だって。
 愛露が最初に殺した人をオレに見立てているだけだろう。
「愛してるよ」
 オレの方を向いて、オレじゃない誰かに言っている。
 オレは死にたくない。
 身体がふわりと浮いた。
 一人でなんか死にたくない。