いつだって幸せな物語の終わりを願った。
『そして彼らはいつまでも、幸せな時を過ごしました』
やっと手に入れた幸せな物語の、甘い甘い夢から覚めたようだった。
目が霞んでぼやけた世界から、真白の天井だとわかるまでしばらくかかった。
身体は動かない。動かそうと思っても感覚がない。
耳鳴りかと思った音は電子音で、定期的な音を繰り返す。少し速くなったのは、俺の鼓動とリンクしているからだと気付いた。
病院で、ベッドに寝かされている。
記憶が曖昧だった。目を覚ます以前がよく思い出せない。
俺は誰か、大切な人と一緒にいたと思ったのに。
「はい、それじゃあまた帰る時に……」
音がして、首が固定されて動かないので目線を動かす。引き戸が開いて、誰かが外の人と話していた。
その人の視線がこちらに移ると、立ち止まり手に持っていた荷物をその場に落とす。
大袈裟なくらいの反応は、まるで映画やドラマのワンシーンみたいだ。
映画やドラマならきっと俺は言葉の一つでもかけるんだろう。でも、声は上手く出せなかった。
「浅葱……」
彼は落ちた荷物もそのままに、よろよろと近付きベッドの横にしゃがみこむ。
その顔が、よく知った顔だと言うことに気付いた。
「良かった……浅葱、良かった……」
瞳がじわりと濡れ、次から次へと雫を零した。左目は怪我をしているのか、眼帯をしている。けれど、そちらからも涙はとめどなく落ちた。
泣いてる様子がとても綺麗で、指でなぞりたかった。なぞったつもりなのに、手は動いていなかった。
「もう、どこにもいかないよ」
彼は、感覚のない俺の左手を握りキスをした。薬指に、誓うようなキスだった。
「もう、ずっと、永遠に離さないよ」
何か言葉を返したいのに、舌が痺れているのか言葉が話せない。もどかしい。手を握り返したいのに、キスをしたいのに、俺はまばたく事しか出来なかった。
こんな事で伝わるだろうか?
「良かった、浅葱もぼくと同じ気持ちなんだね」
彼は嬉しそうに微笑む。
俺は指一つ動かせず、声一つまとも出せないけれど、それでも愛してくれるんだろうか。
「ぼく以外要らないでしょう。ぼくの事だけ思ってて。起きてる時も眠る時も、夢の中でも。浅葱、愛してる」
いつか口にした言葉を彼が繰り返すように言った。俺は瞬きして応える。
そして俺たちはいつまでも、幸せな時を過ごしましたーー。