意識がだんだんとはっきりしだした緑島三十里は危機感にドッと冷や汗が出た。何処かに拉致され、身体の自由を奪われているからだ。
三十里が思い出せる最後の記憶は、カラオケ店の準備をしようと店の従業員入り口に立った時の事だ。ドアに一枚の貼り紙がされていて、訝しんでそれを見た。
『報復』
大きく書かれた二文字。あまりにも思い当たる節がありすぎて、思考が停止した。その時、背後に迫っていた誰かに何かを突き付けられた。
それはスタンガンだったのだろう。全身が痺れる痛みに襲われ、膝から崩れ落ちる。
口に布を当てられ、パニックになった三十里は思わず息を吸ってしまった。どこか甘いにおいがして、頭がくらくらとする。
曖昧になった意識のまま連れ去られる。
そうしてようやく気が付いた時が、今だった。
マスクのような目隠しと猿轡が三十里の顔を覆っていた。
腕は背中で拘束され、真っ黒な首輪の後ろ側とベルトで連結させられているから、無理に動かすと首が絞まった。
足は片脚ずつ膝で曲げた状態で、ももとふくらはぎを纏めてベルトが締め付ける。
立つ事も座る事もままならず、身体を動かしてもがけば芋虫のように悶えるだけだった。
そのくせ、シャツとスラックスはそのまま着せられている。三十里にはそれがどこか変態くさく感じられた。
その時だった。首を掴まれ、床に押さえつけられる。床といっても柔らかいそこは、スプリングの効いたベッドの上だ。
マスクの隙間から僅かに出た鼻頭を摘まれ、三十里はビクンと反応する。息が出来ない。
猿轡がされていても落ち着けば口呼吸出来ただろうが、焦りで三十里は過呼吸気味になっていた。
鼻から息が出来ない。息を止められた。たった二本の指に殺される。鼻から息を吸えないのに必死で酸素を取り込もうともがく愚かな三十里に、指の持ち主はほくそ笑んだ。
時を見てパッと指が離れる。慌てて思う存分息を吸うと、柔らかい枕に顔を押し付けられる。
そちらの方がよっぽどやっかいだった。意外にも鼻と口を押さえつけられて息はできないのだ。
三十里は逃れようともがいたが、上から押さえつける力に少しも動けなかった。
死ぬ、そう思った時にようやく解放され、しばし酸素との再会に喜ぶと、再び顔を枕に押さえつけられる。
先ほどよりも長い時間押さえつけられた。もう限界だ、という時間より少し長く押さえつけられ、必死に酸素を吸おうとしている様をあざ笑うように顔を上げさせられる。
そんなことを小一時間繰り返され、三十里は失禁した。温かいものがベッドを濡らし、それが足に触れるまで、自分が失禁したとも気付いてなかった。
犯人は初めからそれが目的だったのだろうか。三十里が失禁したのに気付くと、窒息ゲームをやめて立ち上がる。
犯人の足に押されて三十里は横向きにころんと転がった。濡れた股間が晒され、そこを容赦なく踏みつけられる。
「ぎっい、」
濡れた感触と、ぐちゃぐちゃという水っぽい音が不快だった。
「グゥッ」
硬い靴の裏が性器を捻り潰す痛みに呻きを上げる。ささやかな抵抗で足を閉じたところで、なんの影響も及ぼさない。
それどころか、鼻で笑われた気配があって、三十里は耳を真っ赤にした。
「ッッ」
締めに思い切り蹴り付けられ、三十里は小便を漏らしながらのたうち回った。動かない手足をぐねぐねともがき、滑稽で哀れだった。
「ひっん、んんん」
再びころんと身体の向きが変わり、今度はうつ伏せになる。
未だ引かない股間の痛みに、ついベッドに擦り付けるとなんとなく多少落ち着く。
三十里は、ヒイヒイ喘ぎながら床オナしている自分を想像すると惨めったらしくて考えないようにした。
「ンッ」
すっ、と指が触れたのは布越しに後ろの穴付近だった。誰にも許していないその場所を探られ、三十里の身体は大げさにビクンと跳ねる。
指はすぐに離れ、次に触れたのは硬くて鋭利なものだった。
それはプツンプツンと小さく弾ける感覚がした。どうやら、丁寧にズボンの縫い目を切り離しているらしい。尻の合わせ目にある布が、ぱっかりと口を開ける。
「ンンン」
一枚薄くなった布越しに指が穴に触れた。今度は下着が引っ張られ、ジャキリと音を立てて切り離される。
三十里は想像した。シャツもズボンも穿いているのに、後ろの穴を犯される事だけに特化した施しをされている自分を。
これが自分の事でなければ、随分凝ったプレイだと笑えたのに。
「んくっ」
するりと割れ目をなぞられ、三十里はビクンと跳ねる。反応しすぎる自分が嫌だったが、目隠しのせいで次に何が起きるかわからなかった。
指はトントンと穴を突く。これから犯されるのだろうか。小さな抵抗で穴をキュッと締めると、指は離れていった。
ホッ、と緩めると冷たくてぬるりとした指が再び触れた。
「んん」
ローションだろう。それにまみれた指がぬるぬると穴付近を濡らした。三十里は穴をキュッと締める。漏らしたようで気持ち悪くて不快だった。
指が再び離れても、不快感が残った。それに、ローションで濡らすだけで終わりなわけがない。
次に何をされるのか。もう早速犯されるのだろうか?苦痛なら歯を食いしばれば終わる。もっと残酷なのは、丁寧に慣らされ快感付きで犯される事だ。どちらをされるのか。
「ひう……っン」
答えはどちらでもなかった。硬くて細いものがズプリと差し込まれる。それから温い液体が直腸を満たしていった。
なんの説明もなく、直腸が満たされて終わりだった。指も触れない。ローションを入れられたのか?漏らすのが嫌で後ろの穴に力を入れる。
それが何なのか、間も無くわかった。
キュルキュルと腸が動いた。少しずつ痛み出した下腹に嫌な汗が吹き出る。
浣腸だった。効果はすぐ出て、堪え難い痛みと排泄欲に駆られた。服を着たままみっともなく漏らすのはごめんだったが、そんな自分を想像するのは容易い事だった。
ましてや報復で拉致され暴力を受けているのだ。糞尿を垂れ流す自分を期待されているに違いない。
それだったらむしろ、早いうちに出してしまうべきなのでは?
いや、それでも、どこかも知らない場所で誰かも知らない人の前で垂れ流すような屈辱は堪え難い。
プライドと理性と、その他色々な感情がせめぎ合い、出すか出さないかを脳内で議論する。
けれど、そんな議論は最初から無駄なのだ。
「はあっあ」
金属の冷たさが後ろの穴に触れる。ゆるくカーブした先端がいとも容易く穴に挿れられる。
アナルプラグだ。
視界を奪われ口を塞がれ、手足を拘束されているのに、何を自由に出来ると思ったのか。当然ながら排泄だって、支配される物の一つに過ぎない。
「ぐっう……ん、ん、……んん"っ……」
定期的に訪れる強烈な腹の痛みに、三十里は背を仰け反り呻いた。痛みで意識が飛びそうになって、同時に痛みで意識が覚醒する。
そんな、グラグラと頭を揺さぶられている感覚に眩暈を起こした。
「うぐっ……」
出したい、出したくてたまらない。さっきから何度もいきんで見たが、当然ながら出せるわけもない。
先程入れられた冷たいアナルプラグは、今では体温に馴染んでその存在を忘れそうだった。
けれども、排泄を拒むそれは犯人の手によって捻りを加えられ、出口でぐりぐりと中をかき混ぜ否応にも意識させられた。
出したい、出したい、出したい。涙と涎をぼたぼた垂らしながら、排泄を強く願っている。
三十里にスカトロの趣味はなかったが、射精管理で相手をいたぶる事もあった。
彼らもこんな気持ちだったのだろうか?いや、俺の方がずっと痛くて苦しい。早く、早く出させろ。早く。
自分本位に思いながら猿轡を噛み締めて痛みを堪える。
どうしてこんな目に遭わなければならない?どうして俺が。
三十里はそんな、かつて三十里に嬲られた者たちと同じ事を思っている。
「んんっ……ん、んーーっっぐ、うっ、ん、」
排泄を諦めきれない三十里は何度目かのいきみを繰り返した。その時は何故か、プラグがゆっくりと引き抜かれていった。いよいよ出せる、解放される、浅はかな脳が喜んだ瞬間だった。
殆ど出かかった時に再び奥まで押し込まれ、その衝撃にビリビリと脳天を揺さぶられた。
三十里を襲ったのは痛みだけじゃなかった。僅かな快楽が麻痺させる。
「んぐうっ……んっんんっん"ん"ん"」
再びプラグがゆっくりと引き抜かれる。今度こそチャンスだと息んだ瞬間にプラグを押し戻される。出かかった便も押し潰して戻される。
何度も繰り返す三十里に、犯人は笑った。楽しんでいた。見えはしないが、そんな気配を感じた。
ようやく三十里が諦めた頃、三十里は犯人に抱き上げられる。
相手の肩に顔を乗せ、足の拘束と腕の拘束されたところを上手く支えに、軽々と移動させられる。
三十里自身それなりの体格があったが、それを軽々と持ち運べる。そもそも、拉致された時にだって薄々思っていたが、相手もまたかなりの体格をした力のある男なのだろう。
そんな事がわかったところで、三十里の頭は排泄のことでいっぱいだった。移動させられるのならいよいよ解放されるのかもしれない。この期に及んでまだ期待した。
先程まで寝かせられていたベッドから、そう遠くない距離の移動だった。言うならば、同じ部屋の中だろう。
そこで三十里は台に下され、しゃがむ体勢をとらされる。履いていた靴下が滑って、左足が落ちそうになった。ちゃんと体勢を取れるまで、犯人は後ろから体を支えてくれる。
台の高さは立った位置で腰ほどの高さだろうか。そこまで高くはないが、落ちた時に受け身が取れないから怪我は免れない。
三十里が末恐ろしいと思ったのは、左足と右足が乗る台がそれぞれ別れており、足と足の間に深い溝があるという事だった。
まるで見世物台に乗せられた猿で、これから芸でもしなければならないようだった。
三十里は見世物台を想像したが、その構造は和式便所のそれだった。
台と台の間には大きいバケツが用意されていたし、体勢だってそのものだった。
その事に三十里も気付く。プラグを抜かれ、何かを待たれている事に。三十里の自らの意思による排泄を待たれているという事に。
「んっ……んんっ」
穴は自由になった。仰け反る痛みに排泄欲は限界を迎えている。けれども、最後の砦は自らの意思で、いきんで出さなければならなかった。
さっきまであんなに出したかったのに、いざその瞬間になると躊躇われた。
犯人は後ろから三十里の腕を掴んで支えていた。つまりは、いきめばすぐさま行われる排泄を、後ろで静かに見ているという事だ。
するのか。拘束され、浣腸され、散々嬲られ。そんな事をしてきた犯人を前に、自ら排泄をするのか。
これほどの屈辱はない。
「ぐっぅ……」
歯が欠けそうな程食い縛る。何度目かの堪え難い痛みの波が来た時、三十里はいきんだ。
待ち兼ねたそれはいとも容易く行われる。
仰け反った背にびりびりと電気が走る。後ろの穴が押し開かれ、出ていく感覚は快楽ですらあった。
猿轡がなければ、あーあーとみっともない声を上げていただろうし、目隠しがなければ排泄による快楽がもたらした涙をまざまざと晒すことになっただろう。
ぼたりと嫌な音と臭いがしたが、考えないようにした。
長い排泄が終わると尻を丁寧に拭われる。ようやく終わったのだ。次はなにが待っている?ここまでされたのだから、今更アナルファックされたところでなにも怖くない。
三十里の期待を裏切るように、再び硬くて細いものをアナルに突き立てられ、温い湯が胎内を満たした。
これだけは勘弁してくれ。
願いも虚しく、三度繰り返される。三度目は入れたそばから湯をぼたぼたと零し、心が折れたのか小便も一緒に垂れ流した。
ベッドに伏せの状態を強いられ、高く掲げた尻の穴に指が触れた。冷んやりとしたローションジェルが淵のひだ一つ一つに塗り込まれるようだった。
少し違和感を持ったのは、相手が薄手のゴム手袋をしているからだ。まるで手術か何かのようだ。
「ん……ぐ……」
散々強制排泄を繰り返した穴は緩くなり、ゴム手袋の指を容易く飲み込んだ。穴を締めて拒むほどの元気が三十里にはなかった。
一本目の指は第二関節まで差し込まれ、中をぐるりと回転する。抜き差しのたびにローションが足され、丁寧に濡らされた。
こんな行為、薬でも使わなければ気持ち良くなれる気がしなかった。今だって、さっきの排泄の延長くらいでしかない。
「んっぐ、う」
二本目が狭い穴を押し広げながら入ってくる。多少キツいものがあったが、痛みはない。
ぬぽっ、ぐちゅっ、わざと音を立てているのか、水っぽい音がした。それが自分の尻からしているのかと思うと、三十里の耳は熱くなった。
でも、ようやくだ。どうなることかと思ったが、結局レイプ目的だった。早くちんぽでもなんでも入れて終わってくれ。
写真でも撮ってばら撒かれるのだろうか?その時は俺だってまた、やり返してやる。
三十里は未だ屈服しない。そんな心情を知ってか知らずか、犯人は三十里の中から指を引き抜いた。
三本目も足されて慣らすのかと思ったが、慣らしはこれで終わりのようだ。思ったより粗チンなのかもしれないし、あるいは無理矢理が趣味なのかもしれない。
どちらにしろ、俺に後ろの素質はなかったらしい。気持ち良くなれないなら一緒だ。
パチン、と後ろの方で音がする。コンドームを付けたような音だった。それからグチュリとローションが尻に垂らされる。慣らしが甘い割りにどこか念入りだった。
ぬるっ、尻の割れ目に熱が触れる。両手が尻肉を割り開いた。入れる前の予備動作か、ぬるんと割れ目に沿って熱がストロークする。
ぬるん、ぬるんと擦られるたびに背筋がゾッとした。あれ、コイツの、長くね?
一回擦り付けて、また初期位置に戻る。その一回がどう考えても長い。こんなのが中に入ったら腹を突き破ってしまう。
まさか、そういう凶悪なオモチャだろう。なんだ、どっちにしろ腹は突き破られる。なんて笑えない冗談に喉がキュウッと乾いてひきつる。
くぷっ、と先端が触れた。
「うっ……」
思わず身体がビクッと反応して、穴を締めた。恐怖だった。あんなの入るわけがない。無理だ。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、先端がゆっくりねじ込まれる。アナルプラグにどこか似ているが、もっと硬くて熱い気がした。そんなの気のせいに決まっているのに。
カリ首までが収まったらしい。引き抜けない程度に腰を引いて、入り口を裏から刺激される。
「ん……ぐ……」
性器は時間をかけて先へ進んでいく。三十里の呼吸に合わせて少し進み、キツければ少し下がった。優しく突くように中が広げられていく。痛くないから拒みきれない。
「んっぐ、う、うっ」
もう入らないと思ったところすら半ばらしい。いっそ無理矢理奥まで進んでくれればいいのに、優しい侵入は心を蝕む。
腰を支える手が背中を撫でた。
「んん……」
自身の出した鼻から抜ける声に耳が赤くなったが、それどころではなかった。性器がコツンと奥に触れる。
最奥のパンドラの箱を、性器の先端が叩いた。
「ぐっふ、ひ、っん」
まだ飲み込みきれないらしい性器は、先端で何度もそこを叩いた。本能が教えてくれる。これ以上はダメだ、と。
けれど、そこで止まる様子は少しもなかった。優しくキスするように、入ってはいけないところへ、先端が。
「ぐっひぅっう」
一瞬世界が真っ白に染まった。それから身体中が熱くて気持ち良くなる。触れるところ全てが気持ちいい。
身体の奥にあるくびれが、カリ首で刺激された。そのたびにドプドプと自身のカウパーが溢れ、漏らしたみたいに股間は濡れていった。
「うおっぐ、ふっ、ぐひゅっう、うっ」
仰け反って喘ぐ。相手の手が腹を撫でた。腹の皮越しに中に入った性器触れている。すごい、やばい、内臓が本当に犯されている。
「ひっぐふっ、げほっおっげおっげほっ」
気管に唾液が入ったのだろう。盛大にむせては、さらに唾液を飲み込めずむせた。そのたびに中の肉棒を感じて身体はキュンキュンと喜んだ。
「ひあああ……あ"ーーっく、あーーっっっあ、あっあっ」
猿轡が外されたが、口から出るのは意味をなさない喘ぎだった。
自分の上擦った声なんて聞きたくなかった。猿轡が恋しい。口を塞いで欲しい。
「んっ」
唇が触れて口を塞がれる。予想しない柔らかい感触と、体勢がより密着して奥を突かれた事で意識が一瞬飛んだ。
激しくもない。優しく揺さぶられるだけで身体は喜ぶ。さっきからびゅるびゅると溢れているのを止められない。
怖い、こんなの怖い。こんなの感じた事がない。
どんな薬よりも幸福に満ちていた。腹の中から全身へ、とてつもない幸福と快感が伝播していく。
「あっう、ん、ん」
涙が流れ落ちていく。
気持ちいい、一生こうしていたい。
「てんちょー……?」
只野は、恐る恐るその部屋を覗いた。
自分のバイト先であるカラオケ屋の店長が、裏で怪しいことをしているのは薄々気付いていた。
それでも、カラオケ屋の割りに給料が良かったし、シフトも考慮してもらえたし、何より店長が頼もしくて優しくてかっこよかった。
高校生の只野にとっては年上の近所のお兄さん的な存在で、少し悪そうなところも憧れる要因だった。
昨日もバイトの日だったから、学校帰りにカラオケ屋に寄った。ところが店は開いておらず、店の鍵を持つ店長とも連絡が取れなかった。
他の店員も心配そうにしていたが、どうしようもない。
翌日、只野が開店時間前のカラオケ屋に訪れると、店の入り口は開いていた。店内は電気が付いておらず薄暗い。
ふと、カウンター奥のモニタールームが目に入る。どうやら防犯カメラのモニターの一つがついているらしい。
店長がいるのだろうか?
只野が見ると、映し出されたそこは特殊な部屋だった。
店長と顔見知りの常連客が、いつも人を連れ込んではセックスをしている部屋だ。合意の下なのかわかりかねるが、いつも楽しそうにしているから、恐らくは和姦なのだろう。
最近はその常連客を見ていないが……。
防犯カメラの映像はそこまで良くなかったが、人がいる事は確かだった。
じっくり見つめると、それはどうやら店長がソファーにうずくまっているらしい。
寝ているだけか、それにしては何かがおかしい。
そうしてその部屋に踏み入れて、最初の違和感が鼻をつく。
酷い臭いだった。その強烈な臭いに最初はなにか理解出来なかったが、それは精液と小便の混じった臭いだった。
「店長……」
「ぐっっうっっうううっ」
低い唸り声は獣のようだった。ソファーの上で小さく蠢く。本当にあれは店長なのか?気色の悪いモンスターじゃないのか?
カチン、只野は電気をつけた。部屋の照明が緑島の姿を晒す。
ソファーの上に蹲り、両腕は背中に拘束され、足は膝で曲げてももとふくらはぎをベルトで纏めて固定されている。
なにより目をひいたのが、臀部から突き出した突起物だった。
突起というには大きすぎるそれは、電動マッサージ機だった。コンセントから電源を取り、ガムテープで固定されている。
今尚ブルブルと振動して緑島を責めているのだと理解するのにしばらくかかった。
「んぐううっ」
「てんちょー?!」
ソファーの上でビクンビクンとのたうち回る緑島に、只野は駆け寄る。どうしたらいいのか、とりあえず緑島の口を塞ぐマスクのようなものと、目隠しを外した。
「ひいいいいっあああっイくうっイぐうううっ」
「え……」
ギシギシと音を立てて腰を振り、そして弛緩する。只野にも理解出来た。緑島が今射精した事を。
「あああ……やだあ……抜いて……ぬいてえ」
緑島がか細い声で言った。そのまま白目を剥いてアヘアヘ言い出すから、只野は伸ばした手をビクッと引いた。
恐ろしかった。よく知った店長が得体の知れない生き物になっている。
どうしてこんなことに。
のたうち回る緑島を見て、ふと気付く。さっきから不明瞭ながらに抜いて抜いてと言っていることに。どうやら腰を振って、突き刺さったそれを抜いて欲しがっているらしい。
「あーっっはああっ、ああああ」
「今、抜きますよ」
「んぁああああっ」
ずるずると引き抜いて出てきたのはいくつもの玉が連なったパールのアタッチメントだった。それらがずっと、緑島の中を責め続けていたのだ。
只野はゾッとした。恐ろしい長さのそれが、一つ残らず全て緑島の中に入っていたのだから。
結腸を責められる良さを知った緑島からすれば、結腸には届かないソレでは物足りないくらいなのだが。
「やば……」
こんなものを入れて痛くないのかな?それどころか、さっき何度もイっていた。
緑島の痴態を思い出し、只野はゴクリと唾を飲んだ。
どんな穴してるんだ。只野は静かに背後に回り、ぽっかり空いた穴に息を飲んだ。
赤く色付いてヒクつく様子は、まるで誘っているよう。
柔らかそう、熱そう、こんなところに入れたら絶対気持ちいい。だって、こんなヒクヒクして、きっと店長だって欲しがってる。
少しだけ、ちょっとだけ。店長だってセックスは気持ちいいと言っていたのだから。
ジ、ジ、ジ、チャックを下ろし、見ていただけで硬くなった自身を取り出す。
「だって、こんなの、仕方ないじゃない」
小さく言い訳しながら、柔らかい穴に自身を押し込んだ。まるで抵抗は無く、むしろ、自ら引き込むようだった。
「う……あ……あ……」
何をされているのか気付いた緑島は首を振った。
乱れる髪がいやらしくて、緑島の後頭部を只野が掴んだ。すると、キュンと締め付けてくる。
「は、あっあっ、ごめん、ごめんなさ、てんちょ、あっ、あああっ、てんちょ、てんちょ」
「ううっ、ああっ、やめ、やめっあ、ああっ」
やめて欲しいのに止められなかった。物足りないのに気持ちよかった。緑島は一回りも違う年下に犯されている自分が不憫だったが、抗えない快感に涙した。
「てんちょ……、ごめんなさい……」
「……」
ようやく終わったのは抜かずに三回、内股に一回出されてからだった。我に戻った只野が拘束を外し、緑島の手足は拉致以来ようやく自由になった。
緑島は色々飲み込んで、只野の肩を叩いた。
「忘れろ」
「……でも、」
「いいから、忘れろ」
もう帰れ、只野の背中を押して無理矢理部屋から追い出した。
散々だった。縛られ続けた手足は痺れと痛みが残っている。後ろの穴だって、擦られ続けて腫れていた。
厄介なのは、結腸を責められたあの感覚が時折襲ってくることだった。不意に穴の奥が疼いて、腰が抜けそうになる。
ズボンのケツは裂けてるし、漏らした物でとにかく臭い。
一度家に帰って風呂に入ろう。これからのことはそれからだ。
ふらつく足で店を出て、ひと気もまばらな交差点を横断する。
危ないと、遠くで聞こえた声は只野だったかもしれない。
気付いた時には激しいブレーキ音、自分の身体が宙に浮き、衝撃がーー。