エピローグ

「灯」
「あーう」
「あかり、捕まえた」
「あー」
 キラキラの目とぷにぷにの手が愛おしい。食べてしまいたいとはこの事で、ちっちゃな手をもぐもぐと口に入れた。
「灯、大好きだよ。ずーっと大好き」
 抱きしめてくるくるとその場で回る。君の世界の中心が俺だといいのに。なんて、やたら意味を込めて。
「向葵くん、灯くん、ご飯できたよ」
「はーい。ほら、あかねさんがご飯だって」
 結婚生活を始めて五年、子供を授かって二年。愛しい我が子と妻に囲まれ、幸せな日々が続く。
 あかねさんと出会ったのは大学の時だった。少し年上で、明るくて元気な人だ。
 一足先にあかねさんが就職、社会人と学生の恋愛だったけれどすれ違うこともなく、俺の就職と共に結婚した。
 授かった子供には灯と名前を付けた。あかねさんみたいに明るくて元気な子になってほしい。

 あかねさんは、俺が生涯で二度だけ体を重ねたあの人に似ていた。
 他の誰にも、あの時ほどの感情は動かなかった。それでもあかねさんとなら生きていけると思ったし、灯が生まれてその気持ちはさらに強くなった。
 今はこの家族が大切だった。
 愛しい我が子の名前を呼ぶ時に、もうあの人にはあげられない愛情を足して注いであげている。
 俺の、誰にも言えない秘密。
「灯、ごはん美味しいね」
「んまあ」
「あかねさん、いつもありがとう」
「ふふ、こちらこそ」

終わり