弟の様子がある時を境におかしくなった。成績低下を理由に部活を辞めさせられて日増しに表情が暗くなっていたが、今はどこか、何かが違う。
秘書として父の仕事を手伝う傍で、弟の様子をこっそり監視した。
それを目にしたのは酷い雨の日だった。
両親は揃って外出をしていて、夜まで帰らない。俺も出掛けていたが、途中で帰宅する。こっそりと、静かに。
「……あ、あ……」
壁は薄くないが、扉越しに微かに声がした。弟の部屋から、弟の声がする。他に靴はなかったから、恐らく弟一人だろう。
俺は自室に戻ってパソコンを開く。やり過ぎだろうか?いや、目を離した隙に首でも吊られては困る。
カチ、カチ。パソコン上に映るのは弟の部屋を四ヶ所から撮影した動画。机の上に設置したカメラが、ベッドの上の弟を捉えた。
「あ……あ、んっ、あかり、灯っ」
切ない声で鳴く姿に思わず息を呑む。
弟は下を脱いで尻を高く掲げ、後ろの穴に深々と指を入れている。一方で自身を握り、何度も擦っていた。
自慰だった。後ろを使った。
後ろの穴は3本の指を易々と受け入れ、抜き差しするたびに赤い内臓を晒している。
それをする弟の表情は恍惚として、男子高校生のするものとはとても思えない、いやらしい顔をしていた。
弟を見つめながら思案する。いつからなのか。いつから弟はこんな……。
頭に過るのは一週間前の事。連絡も無く朝帰りして、父からこっ酷く叱られていた。
ふらふらとした足取りで苦悶の表情を浮かべていた。帰りが遅くなった理由を、友人とカラオケで盛り上がってつい徹夜した、なんて話していたが。
イマイチ腑に落ちなかった俺は監視カメラを付けて観察して、遂に目撃した。
「あーっ、あっあっ、んんん」
声を上げる弟に魅入る。後ろに差し込んだ指も、自身を握る手も早く動いて絶頂の時を迎えようとしていた。
「アッ……くうっ……ん……」
ビクビクと身体が跳ねて達したらしい。それにしては違和感を覚えた。カメラをズームにして気付く。弟は自身の根元をキツく握り、射精しないで達していた。
それから少しして、弟は再び手を動かし始めた。繰り返し、繰り返し、終わらない絶頂を求めて。
「……あかり、あかり……」
弟が何度か切なげに名前を呼んだ。それが誰なのか。
収まりの付かない滾った自身に困惑しながら、その名前を俺も呟いた。
「あかり……」