黄野稀路×

「ああああっひー、あっ、ああっ」
 緑島に嬲られては、疲れ果てて泥のように眠る毎日だった。逃げ出したかった。兄貴に縋りつけば助けてくれるに違いない。
 けれども、携帯は奪われ、薬とセックス漬けにされて頭も身体も動かなかった。
「こんなにされたって気持ちいいんだろ、灯」
「あああっはあ、はあっはあっ」
 性器を軽く撫でられただけで堪え難い射精感に襲われた。けれど、尿道に深々と突き刺さる金属棒が射精を邪魔して叶わなかった。
 その棒は、性器を根元から編み上げたような革バンドに固定され、抜くことは出来なくなっている。そしてその革バンドは小さな鍵で封印された。
「は、ずせ、外せっ」
 ソファーがギシリと音を立てる。緑島を押し倒し、性器を緑島の手に擦り付ける。
 鍵を外して欲しいと懇願しているのか、快楽を貪っているのかわからなくなる。緑島の手は優しく性器を握って扱き、イくことが出来ないオレを無慈悲に高める。
「あー、あーっ、あーー」
「鍵は持ってない」
「なっんで?! なんでっ……あひぃっ」
 玉を握られ腰が引けた。緑島の指はマッサージでもするように玉を指で圧す。それが思っても見ないくらい気持ちよくて、身体を震わしてただただ耐えた。
「俺の知り合いが持ってるから。灯、今からそこ行って鍵外してこい」
「っくあ、ひっ」
 ふざけるなと声を張り上げて罵りたかったが、玉の形が歪む程に握り潰され喉が詰まる。
 もっと恐ろしいのは、それさえ気持ちいいと感じている、自分の身体だった。
「ちなみに二時間勃起したままでちんこが壊死した人もいるらしいからな。灯、早くしないとちんこがもげるぞ」
 ぎゃははと笑う緑島を前に、茫然とする。上手く働かない頭は、壊死してもげる性器を想像しながら、射精したい欲とないまぜになって考えがまとまらない。
「今そいつんところの行き方教えてやるから」
 緑島は紙にペンを走らせる。オレが黙って見つめていると、緑島は笑いながら言う。
「そのままいくつもりか? そんなにちんこ触ってほしいのかよ」
「んっ、ちがっ、あっあっ」
 優しく擦られると切なくなって泣きそうだった。緑島の手を必死で払いのけ、床に転がったスウェットを穿いた。
 尿道に刺さる棒と革バンドで、とても下を向かせることは出来ない性器はスウェットからはみ出した。それをパーカーで覆い被す。
 上下共にゆるっとした服で、そう不自然ではなかった。大丈夫かとパーカーの上から性器のあるあたりを撫でて、刺激に腰が砕けた。
 隠すのは大丈夫そうだ。でも、まともに歩けるかはわからない。
「一人で楽しそうじゃねーか。ほらよ、地図と交通費、千円もありゃ足りるな」
 床に蹲るオレの手を取り、紙切れと一枚の札を握らされる。今のオレにはこれだけが頼りだった。
「初めてのおつかい、行ってきな」
「んっぐ、あっ、あ……」
 ばちんと服の上から性器を叩かれ、堪らず腰を振る。
 とても鍵まで辿り着ける気がしない。それでもオレは、立ち上がりその場を後にした。

 身体が快感に震えないよう、全身に力を入れて歩いた。呼吸すら忘れて数メートル歩き、苦しくなっては少し立ち止まる。
 頭がおかしくなりそうだった。気を抜けば地面に這い蹲り、果てるまで腰を振ってしまうかもしれない。本当は一歩歩くことさえ辛く、その場に崩れ落ちそうだった。
 兄貴に電話する事も考えたが、携帯の番号なんて覚えていなかった。それに兄貴に縋ったところで、鍵は外れないかもしれない。
 怒りと焦燥と耐え難い快感に頭が割れそうに痛い。それでも歯を食いしばってもう一歩踏み出す。
 普段なら徒歩5分の距離を20分もかけて駅に着く。夕方のラッシュにかち合ったのか、電車は隣を押し合うくらいには混雑していた。
 快速電車に乗って6駅先の目的地までドアは開かない。車両の真ん中あたりで身動きできず、息苦しさを覚えた。
 けれどそれだけじゃなかった。周りの人間と肩が触れ合うだけ、鞄が当たるだけでも全身を電気が走るような快感に襲われた。
「ん……」
 口に手を当てて声を殺す。おかしくなりそう。でもしゃがみこんで注目を集めてしまったら、スウェットの中の違和感に気付かれてしまうかもしれない。
「はっ……っあ……」
 その時、するりと尻を撫でる手があった。一瞬触れただけだから、電車の揺れでたまたまぶつかっただけかもしれない。
 けれど、その手は再び尻に触れた。
「ふうっ……」
 急に尻肉を鷲掴みにされ、堪えきれずに声が漏れた。オレは仰け反りビクビクと震える。射精こそできないが、尻を掴まれただけでイった。
 その余韻と、ひしめき合う車内の薄い空気で軽い酸欠状態になっていた。頭はぼんやりとしている。
「おっ……っ」
 咄嗟によく、少し呻いただけで済んだと思う。スウェット越しに性器を掴まれて、腰が抜けて膝から落ちかけた。
 後ろに立つ人がオレの身体を支える。再び射精しないでイったオレは、後ろの人の腕に抱かれながらビクビク震えた。
「またイった?」
 その男の声はそう囁くと、スウェットの中に手を入れて、拘束された性器を握りしめる。
「っあ……あ……」
 尿道を貫く金属が擦れて痛い。痛いのに気持ちいい。壊れそう。もっと強く握って欲しい。おかしくなる。
「こんな電車の中で何回イくつもり?」
「あひいっ……」
 玉を握られ、奇声が車内に響いた。前後にいる人は声の出所に気づいているかもしれない。振り向いたところで、俯くオレの姿しか見えないだろうが。
「ちゃんと意識保っとけよ」
「く、う、う……」
 容赦なく揉みしだかれる。
 ただの痴漢じゃない。性器の戒めを最初から知っている手付き。
 緑島の仲間なのだろう。あいつの悪趣味な性癖に反吐が出る。

 尿道からはみ出した金属をグリグリ捻られると、オレは天を仰いでポロポロと涙をこぼした。まるで射精出来ない代わりに涙を出した、かのように。
 せめて声は出さないようにと、手で口を覆った。そうしたところで鼻から抜ける甘えた声は抑えられない。
 もういいんじゃないか。きっと周りの人間にも気付かれているだろうし。声を殺す事なんてやめて、声を上げて腰を振り、快楽の限りを求めても。
 僅かな理性とのせめぎ合いの最中、男が何かを取り出し、性器に押し当てる。
「これ、わかるか?」
 それが何なのかわかるか、と男が尋ねた。それが何なのかわからないが、根元から先端へ向けてゆっくりなぞるように移動しているのに気付いた。
 そしてそれは先端、金属の棒を圧迫するように押さえつけられると、カチンと言う音がした。
 正確に言えば音は聞こえてなかったかもしれない。でも、スイッチが入る瞬間を、僅かな振動が確かに教えてくれた。
「っひぐああああっあっあーっあーっああああ」
 小さな機械が恐ろしい程振動した。それは金属を震わせ、繊細な内壁を揺るがし、前立腺を中から抉る。
 突然車内に響いた奇声に乗客はどよめいたが、オレは仰け反り白目を剥いて絶頂を繰り返して、それどころではなかった。
「あひいっひいーっっっ」
 意識を飛ばしては覚醒するのは、その強すぎる刺激のせいだった。終わらない快感の地獄に、脳みそがぐちゃぐちゃにかき混ぜられているようだった。
 快感で死ぬと言うのはあり得る話だ。神経が焼き切れそうになっている。身体が硬直と弛緩を繰り返して、全身の筋肉が悲鳴を上げた。呼吸すら出来ているのかわからない。
『○○駅ーー○○駅に到着ですーー』
 そのアナウンスが流れると、性器から機械が離され、スウェットとパーカーが直される。そして強い力で引っ張られ、縺れる足が転んでも無理やりに連れ出された。
 時間にしたら二、三分の出来事だった。体感としては永遠に終わらないようにさえ思えたが。
 それは他の乗客にとっても同じだったかもしれない。背中に視線を感じながら、オレは駅のトイレに連れ込まれた。
 ガタガタと音を立てて個室の壁に押し付けられる。顔を軽くぶつけた。スウェットを脱がされ、即座に男が尻肉を掴んで割り開く。
 緑島のところでこき使われた穴はまだ柔らかく、男の指が開かせると素直に口を開けた。
「あ"っ」
 頸を噛み付かれて悲鳴を上げる。間を置かず、穴を男の性器が突き上げて全てがどうでも良くなった。
「あああっあああっ」
「さっきめちゃめちゃイってたろ。ほら、もう一度だ」
「いあああああっ」
 ブゥンと振動が性器を襲う。再び金属が尿道を責めた。前から後ろから、前立腺を潰されて声も出ないで絶頂する。頭は真っ白になって、ハッと意識を戻すたびにまた次の快感が詰めかけた。

 腰が押さえつけられ、男の性器がびくんびくん震える。小さな呻きと共に最奥に吐きつけられた熱にうっとりとした。
 呼吸は落ち着かず、二人してハアハアと荒い息をする。それからちょっとの間も置かず、男は再び動き出した。
「んっ、あ、あっ」
 突かれるたびに頭の中が真っ白になる。ずっとイき続けているようだった。性器に当てられたおもちゃが外されたのが唯一の救いだ。
 ドンドンドン。
「お客様、他の方の迷惑になる行為はおやめください」
 突然、トイレの外から声がした。誰か他の客が駅員に言ったのだろう。一瞬頭が冷えて、オレを突く男と顔を見合わせる。
 男がオレの中から引き抜いたのは、饗宴を幕引きするためではなかった。
 ドンドンドン。
「お客様……うわっあ」
 ガチャガチャ、ガタ、ガタン、ガチャガチャ。
「なにっやめ、」
 男がトイレの鍵を外して戸を開き、オレが外にいた駅員を中に引っ張り入れる。即座に戸を閉じ鍵が締められた。 
 戸に駅員を押し付けて、呆気にとられている隙に駅員のズボンのチャックをおろし、性器を取り出した。
 若くて体格のいい駅員だった。力には自信があったんだろう。でもダメだ、こんなところに一人で来るようじゃ。
「これでお前も共犯だ」
「離せ! やめろっ、気持ち悪い」
 躊躇なく駅員の性器をしゃぶった。口ではなんとでも言える。玉を転がしじゅぽじゅぽと音を立てて奉仕すれば、間もなく熱く硬くなる。
 襲われた恐怖と嫌悪感と、隠しきれない快感がないまぜになった表情がそそる。
 それはオレを犯した男も同じようだった。
「んっぐうううっ」
 男は駅員の腕を頭上で押さえつけ、顎を掴んで口内を貪った。ポタポタと雫が垂れて、駅員が泣いてる事に気付く。益々興奮する。
「んっんっ」
 次第に駅員は落ち着いていき、声が上擦っていく。
「はあっはあっ、あっ、違うっ、いやだ、っあ、おかしいっああっ」
 駅員が泣きながら困惑した声を上げた。性器はだらだらと先走りを零し、腰を振って刺激を求めている。
 恐らくオレに使っているのと同じ薬を飲ませたのだろう。困惑して嫌がっても身体は言う事を聞かず、快感が支配する。
 そんな駅員と楽しそうにキスする男が羨ましい。オレも駅員を可愛がりたい。絶望しながら善がる瞳を間近に見たい。
 でも、目の前の射精を待ちわびる性器が愛おしいから、オレはむしゃぶりついて駅員を果てさせる事にした。
「あううっくうっ、ううっ」
 濃い精液が喉にへばりつく。飲みづらいそれをなんとか嚥下しながら、そのまま駅員をもう一度高めさせる。扱けばすぐに勃起する素直な様が可愛い。
 もう一度、もう一度、そうやって繰り返し駅員を絶頂させた。泣きながらもう出ないからやめてくれと懇願し、尿を漏らすまで。

 駅員に口付けて、口いっぱいの精液を返してやる。駅員は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をしたが、深い口付けで次第に気持ち良さそうになっていった。
 手の空いた男は、先ほどまで散々オレをいたぶるのに使ったオモチャを、オレの後ろの穴にあてがう。
 大した抵抗もなくぬるりと入ってくる異物に背中がゾクゾクと震えた。垂れ下がるリモコンの紐は、オレの性器にぐるぐると巻き付けられる。
「待ってるから」
 男はオレにそう囁くと、駅員を押しやりトイレから出て行ってしまう。
 当初の目的を忘れかけていたオレはハッと思い出す。
 濡れた瞳で見つめてくる駅員に別れを告げるのが名残惜しい。こんな状況じゃなければもっと可愛がれたのに。でも仕方がないのだ。
 唇を重ねるだけのキスに切り替えて、出すものも無いのに勃起している駅員の股間を膝で蹴り上げる。
 悶絶した駅員は床に崩れ落ちて股間を押さえたが、その表情は快感を覚えていた。
「また今度遊ぼうな」
 もう一度キスをしてオレもその場を後にした。

 ローターの振動が物足りなくて、自分でスイッチを強に入れる。軽くイきながら向かう道は、緑島に教えてもらった鍵の在り処の示す先だった。
 渡されたメモには最寄駅、マンションの名前と部屋番号、それから鍵の持ち主であろう「黄野稀路(コウノキイロ)」の名前が書かれている。
 漸くマンションに辿り着いたオレはオートロックの入り口で呼び出しボタンを押した。
 ピンポーン、という音が数回鳴ると、インターホンから声はしないがオートロックの扉が開かれる。妙な不安と興奮でドキドキしながら、上階にあるその部屋へ向かう。
 部屋の前で再びインターホンを押すと、扉が開かれた。そこに立っていたのは、やはりと言った感じか、電車でオレに痴漢をした男だった。
「随分遅かったな。ここまで来る途中に何回イったんだ?」
「あひっ……ん……わかんね、ずっとイってる」
 中に入るとスウェット越しに性器握られた。それだけでまた軽くイく。身体に力が入ると胎内のオモチャを締め付けて前立腺が刺激される。それでまたイって、終わらない快楽の無限ループだった。
「服脱いでケツ向けてソファーに座れ」
 通されたリビングでオレは上も下も脱いで、ソファーの上、背もたれの方を向いてしゃがんだ。
 男、もとい、黄野はローテーブルに座り、携帯のカメラを構えた。
「手、使わないでローター出して」
 早く、と急かされる。オレは尻肉を手で割り開き、穴を見せつけるみたいに曝け出した。
 ヒクヒクと穴が疼く。排泄するみたいにいきんで、ローターが胎内をゆっくり降りていくのを感じた。
「あ……あっ……」
 まるで本当に排泄しているような背徳感とか羞恥とか、それを押しのけて快感があった。
 穴がぷくりと膨らんで、ローターが出て行くのを感じた。半分くらい出たところで、それは奥深いところまで押し戻された。
「んあああっ」
「やっぱ犯し足んねーわ」
 背もたれに手をついて、後ろから犯される。深いところまで入ったローターが感じたことのない快感を教えてくれた。
「ああああっん、ん、っく、あっ、あっ」
 もはや喘ぎ声を上げることすら辛かった。背を仰け反り、意識を飛ばしては、性器に刺さった棒をグリグリ押されて無理やり起こされる。
 プツンと事切れて意識がふわふわとした。殆ど無意識に、身体が反応するままに小さく喘ぐ。
 黄野が胎内に熱を放ち、やっと解放される。ついでにローターも抜かれ、ソファーの上に四つ這いにさせられた。
「射精させてやるからな」
 黄野はオレの頬をぺちぺちと叩きながら言った。お待ちかねの射精だったが、そんな体力もない。
 鍵がカチリと外され、編み上げのバンドから解放される。
 性器に刺さる忌々しい棒がゆっくりと引き抜かれた。尿道を出て行く感覚は射精と言うよりおしっこに近い。
「ミルキングって知ってるか」
 ニヤリと笑う黄野に嫌な感覚を覚えたが、どうすることも出来ずただ首を横に振る。
 ぬちゃり、黄野が指を穴に入れた。なにかを探るみたいに動かして、前立腺でもない場所をじわりと押した。
「んん……」
 格段気持ちいいというわけではない。ただ、喪失感が襲う。
「ほら、射精してる」
 言われてハッと見る。ソファーにとろとろと零れ落ちるそれは確かに精液だったが、射精の快感は決してない。ただ押し出されているだけの精液を呆然と見つめた。