白土見来・黒森虚×

 向葵に会いたくて街を彷徨い歩く。金も携帯も緑島のところに置いてきた。
 セックスもクスリも気持ちいい事も好きだった。けれどずっとバリタチでやってきたから挿れられる側は飽きたし、拷問みたいな快楽で神経が焼き切れそうだった。
 オレが今欲しいのは癒しだ。あの、無垢で純粋な向葵に会って、子供みたいな可愛いキスをして、ベッドに二人で眠りにつきたい。オレがぐちゃぐちゃにしておいてなんだけど。
 ドンッ。バサバサ。
「あ、すみません」
「いや、こっちこそ」
 ぼーっと歩いていたらすれ違った眼鏡の男と肩がぶつかった。その男はスーツを着ていて、持っていた紙を地面に落とす。
 男が拾うのをオレも手伝う。なんだか向葵に会った時の事を思い出す。
 スーツの割にスポーツでもやっているのからやたらと体幹が良さそうだった。実際、ぶつかったオレの方がよろけていたし、肩も少し痛いくらい。スーツの下は凄そう、なんて眺めていると、顔を上げた男と目が合う。
「実は捜し物をしていまして」
「あ、そうなんですか」
 野暮ったい眼鏡でイマイチ顔の造りがわからなかった。向葵も見つけられないし、この男でいいか?
 そんな思考も吹き飛ぶ。今拾い上げた紙に印刷されたのは、どこからか盗撮したのだろう、オレの横顔だったから。
「それ、誰だか知っています?」
 口角を上げて不気味に笑う。背中に冷たいものが走るように鳥肌が立った。
「これ……」
 ガウンッ、ガチャッ、ガウン。
 言葉は遮られた。後ろから口を塞がれ、後ろ向きに強い力で引っ張られる。なにが起きたか理解する暇もなく、次のコトは起きる。
 カシュッ。
「んっ」
 一瞬冷静になった頭は、ここが車の中だと理解する。少し広めのワンボックスカーだろうか。
 後部座席は全て倒され、寝心地の悪いベッドのようだ。そこに仰向けで寝かされ、鼻に何かを押し当てられる。
 軽い音で鼻の中に吹き付けられた粉末。動揺して吸い込んで、グラリと世界が揺れた。
「あっ、あ、」
 やばい。絶対やばい。恐怖と不安が100倍くらいに感じて、一気に汗が吹き出る。指先が冷えて感覚がなくなっていく。でも熱い。体が熱い。
 ブウン、車のエンジンがかかり、静かに発射した。目の端で、さっきのスーツ男が運転席に座っているのを見つける。それじゃあこいつは誰だ。
 オレの頭側にいるそいつがオレの耳を抑えるように手を当てた。それから唇が重ねられる。
 こんな状況なのに、唇の柔らかさが心地良かった。さっきオレが願ったばかりの、甘いだけの優しいキスだった。

「うっうう、げほっ、おえっおええっ」
 急に迫り上げて、吐くと思った瞬間には吐いていた。
 キスをしてきた男を押し退けて、前と後ろの席の境い目の隙間に頭を突っ込み思うままに吐いた。
 胃の内容物に押し開かれた喉が痛かったが、それが少し射精に似ている気がした。
「あぶねー、舌先まで来てた」
「なにそれ」
「スプレータイプ、便利だろ」
 オレの頭上で会話がされている。耳も目もよく見えた。五感が嫌なくらい研ぎ澄まされている気がする。
「もう一発キメとくか」
 首を掴まれ、上を向かされる。手足が痺れた。血液が頭に集まってるみたい。ハッキリ冴えた頭が、やばいクスリだから逃げろと警鐘を鳴らすが、身体は動いてくれない。
 カシュッ。

 口元にペットボトルの口を当てられてそれを手で押しのける。これ以上変なものを口にしたら死んでしまう。でも、手に上手く力が入らなくてペットボトルがぐにゃりと突き抜けた。
「これはただの水だから平気だ。口の中気持ち悪いだろ? ゆすぐだけだから」
 男はそう言うと、自分でペットボトルの水を一口飲んだ。男が飲んだなら大丈夫だろうか。差し出されたペットボトルの口を咥えて水を少し含み、さっき吐いたところに吐き出す。
「そうそう、偉いよ。あとはもう、気持ちいい事しかしないから」
「ん……アっ、」
 後ろから抱き寄せられ、首筋にちゅっちゅと口付けられる。シャツの下に入った手が乳首をキュッと摘んで、それだけで身体がビクンと跳ねる。
「乳首っや、っ、あっ」
「なんで? もう勃ってるよ。乳首あんまりいじった事ない?」
「ああっ! んっ……や、あっ」
 両方の乳首を摘まんで潰され捏ねられて、身体の奥がキュンとなるのに物足りなくてもどかしかった。
「乳首気持ち良いだろ? もっと良くするから」
 ちゅっ、耳元で話すついでにキスをされる。それから仰向けに寝かされ、オレを跨いだ男がシャツを捲り上げて顔を埋めた。
「ひあああっ、あっ、あー」
 右の乳首を舐めたかと思うと、左の乳首を吸い上げられた。一瞬イったかと思って腰を突き上げたけれど、それは錯覚だった。
「気持ち良い? 灯は自分のちんこ握ってな」
 ずるっとスウェットとパンツが下され、オレの右手が導かれる。気持ちいいけど、なんで?と疑問が湧く。
「あっ、ん、名前っ、名前……」
 少しおかしくなった頭は、上手く言葉が出なかった。どちらかと言うと握ったちんこを扱くので必死だった。
「ああ、オレの事はクロって呼んで。あっちはシロ」
 運転席のスーツを指差してシロと呼んだ。シロは「ハクトだけどな」と一言ぼやいた。
「んん、クロ、あーっ、イくっ、あ、あっ」
 そう言う事が聞きたかったわけじゃない筈だったけど、よくわからなくなる。
 クロに乳首を吸われ、それに合わせてちんこをきつく絞るみたいに扱くと気持ちよくてオレはイった。
「灯? こんなんじゃ足りないだろ」
 余韻に浸って動きを止めたオレの手を、クロが上から握って上下に動かす。意図も簡単に勃ち上がるし、確かにオレは身体の奥が疼いて物足りなかった。
 キキッ、車が止まり、シロがこちらを振り向く。
「着いたぞ」
「サンキュ。灯、一回移動しよう。ここよりもっと広くて良いと思うよ」
 ガウン、ガチャ。スウェットとシャツを戻されてから車のドアが開かれる。今なら逃げられた筈だけど、オレの頭にはそんな考え微塵も浮かばなかった。
 先に降りたクロが手を差し出してエスコートしてくれる。それがそう言うごっこ遊びみたいで少し面白かった。
 クロの手を握って降りると、足がぐにゃりと曲がって地面に崩れ落ちそうになる。
 すかさず手を伸ばしたクロが、腰に腕を回して強く抱きとめた。まるで王子様だ。それじゃあオレはお姫様で、これから行くのはお城。お城の中で王子様とお姫様はセックスして幸せになるんだ。
 馬鹿な妄想は悪くなかった。
「おい、ゲロは」
「シロよろしく。準備はしとく」
「ちゃんと待ってろよ」
 後ろで飼い犬のシロが吠えた。賢い犬だ。でも待てと言われてるのはクロで、なんだか面白くてクスクス笑った。


「あ、あ、あ、あ、んー、んん」
 ベッドで四つ這いになって、ローション塗れのクロの指が中をかき混ぜた。
 そんなの要らないからクロので満たしてと強請っても、『灯は良くても、このまま挿れたら俺は痛いから』と聞いてくれなかった。
 いいじゃん、慣らしてないところを無理やり押し開いて、自分の形にするのが。でもクロがダメだと言うのなら、それに従うしかない。
「灯、自分で慣らしてみる?」
 クロが指を引き抜きながら聞いた。中に入っていた二本の指を左右に開きながら引き抜くから、背筋がゾクゾクしてそれだけでイきそうだった。
「もう、も、イっちゃうから、クロが欲しい」
 オレは自分の手で尻肉を割り開き、指で穴を開いた。元々毎日のようにセックスしてきて、バカになってきた穴だ。これ以上バカになる前に、早く何とかして欲しい。
 オレの渾身のおねだりに、クロは微笑んだ。
「やらしい。灯、おいで」
 クロは自分のズボンの前を寛げると、取り出してゴムを被せた。オレの手を引いて、膝を跨がせる。
「自分で挿れれる?」
「そういうの、超得意」
 クロの肩に掴まって、片方の手で穴を開きながらクロの先端を飲み込む。
「はあ、あ、イっちゃうからゆっくりでいい?」
「いいよ」
 ああ、なんかいつもよりずっと優しいセックスしてる。普通だ、普通のセックス。
「ん……んんっ」
 ゆっくり腰を下ろしていく。待ち望んだ熱は期待以上で、中が満たされていくだけでイきそうだった。いや、全部飲み込んだら、それだけでイってしまうに違いない。
「はあっ、あっ、あ……」
 なんて幸福感だろう、クロに深いところまで侵されて、それだけで世界が白飛びするくらい気持ち良かった。無意識に穴を締め付けて、クロの熱がよりリアルに感じられた。
 もう、ああ、なんか凄い、イってる、射精はしてないけど、静かに全身で絶頂をしていた。
「動いていい?」
 クロが鎖骨や乳首に口付けながら聞いた。
「こんな、きもちいのに……もっと気持ちくなっちゃうの……?」
 クロが動いたら、オレは壊れちゃうんじゃないか。そう思うと、期待と不安でクロを締め付けて気持ち良くなってしまう。
「灯だけズルいだろ。焦らされすぎてもう限界なんだよ」
「ごめ……んんっあうっ、ううっあっっ」
 ズンズンと下から突き上げられて仰け反った。クロに腰を掴まれて、ひと突きひと突きを渾身で突きあげられる。
「灯」
「あっ、あ、あっ」
 気持ち良すぎてつらい。クロの首に腕を回して頭を寄せた。耳元でクロが名前を囁く。勘違いしてしまいそう。こういうのが愛なんだろう、なんて。

「んっ……は、」
 耳元でクロが小さく低く喘いだ。クロを締め付けると、オレの肩に額を押し当てて堪えている。
 オレの穴で気持ち良くなっているんだと思うと、背筋がゾクゾクとする快感があった。
「あんっ、あ、あっ、ああっ」
 クロの喘ぎが聞きたいのに、誰かがアンアンうるさい。誰だよ、あ、オレか。
「灯の穴はお利口だな。イっちゃいそう」
「ああっ、ん、いいよぅ、イって、イって……っ」
「それはまだ、だめ」
 クロの指が尻をぎゅっと掴む。マッサージみたいに揉みながら、もう十分開いた穴をさらに開くように引っ張られる。
 ガチャ、バタン。
「あ、もう入れてる。待ってろって言ったのに」
「慣らしてたんだろ?」
「あ、そ。どう? ゆるゆるの馬鹿な穴してる?」
 背中側にある扉が開いて、シロの声がした。シロとクロは喋っていたが、その半分も頭に入ってこない。
「いや、意外とキツい」
「ひあっ、あ、それ、っあ」
 穴の縁を指で潰され、ナカがキュンとした。締め付けると前立腺にクロが当たって益々気持ち良くなる。
「でも灯の穴はお利口だから、もっと緩められるだろ? 力抜いて、灯」
「ん、んっ、」
 クロが甘いキスをくれた。締め付けた方が気持ちいいはずなのに、変なことを言う。でもキスで頭も穴もゆるゆるになっていった。
「そうだよ灯チャン、もっと力抜かないと」
 後ろからシロがぴたりと抱きついて、熱が背中に当たった。それはつつつ、と下に降りてゆき、もうクロのでいっぱいのそこにあてがわれる。
「俺のちんこ入れたら切れちゃうよ?」
「んっ、んふ、うっ、あ、」
「ははは、怖がってキツくなった」
 シロのが穴に入ろうと縁を撫でた。オレは全身から冷や汗がドッと出るのを感じた。
 もうクロのでいっぱいなのに、こんなところにシロまで入ったら穴が切れてしまう。
 でも、その一方で期待する気持ちもあった。二人もいっぺんに入ってきたら、オレはどうなってしまう?
「大丈夫だよ」
「んんっ」
 シロがオレの肩にがぶりと噛み付く。でも、痛みよりずっと、快感の方が強かった。
「痛くないだろ? クロが使った薬で痛みなんか感じないから」
 シロが肩の噛み跡を舐めた。恐怖で一瞬萎えたのに、また快感が、期待が上回る。
「力抜いて、灯。三人で気持ち良くなろう?」
 ずるり、半分ほど抜けたクロに寄り添い、シロが穴を突いた。
 オレは身体の力を抜いて、深く息を吐く。怖い、でも。
 どちらかの指が穴を開いた。その隙間にシロがねじ込まれる。先っぽさえ入れば、あとは、なんて簡単なものじゃないけれど、絡み合う二つの熱がオレをゆっくりと犯していく。
「あ……っは、こんなの……壊れちゃう」
 その声が上擦って、期待しているのは自分でもわかった。そして熱は期待以上に、オレを壊してくれる。

「あっ……は、っ、っ」
「やべ、まじ入った」
「は、偉いよ灯」
 クロが褒めながらキスしくる。でも、オレはそれどころじゃない。
 穴が限界を超えて開かれている。それなのに、二人は中で小さく動いた。
「はあ……あ、あ、」
「あれ? もしかしてイってる?」
「どうだろ、ちんこ萎えてるけど先走り出てる……ああ、イってるなこれ」
 世界が真っ白になって、脳みそがグラグラした。身体から力が抜けて、シロに寄りかかる。クロが頬を叩いてオレを呼んだ。
「灯、こっちおいで」
 クロの腕がオレを抱き寄せる。
「うあっ、あー……あーっ……」
「またイった?」
「ずっと中イきしてる。灯? 気持ちいい?」
「ああ……っあ、っ……」
 少し動いただけで身体がビクビクと痙攣した。意識は細切れに飛んでわけがわからなくなる。クロに抱きついてしがみつく。
「可愛いな、灯チャン。クロのこと好きになった?」
「頭も蕩けてるって顔してるな。灯? 気持ち良いのはここからだろ」
「ひ……っあ、あっ、あーっあーっ」
 クロがオレの腰を掴んだ。シロが肩に口を付ける。ずるり、中の二人がゆっくり大きく動き出す。背筋が震えた。バラバラに、一緒に、中が犯されていく。
 穴が前後に広がった。それから二人いっぺんに奥まで突き上げてくる。極太のバイブより熱くて重い熱に内臓まで犯されているみたい。
 時折餅つきみたいに二人が交互に突いてきて、息つく間もない。ズンズンと重く突いてくるのがクロで、パンパンと激しく突いてくるのがシロだ。と見分けがつくと、突かれるたびにそれぞれが可愛く思えてきた。
「あーっ、っはあ、っあ、あ、あ……んう、ふ、う、」
 求めるとキスしてくれる。クロの舌に絡みついて、ちゅうちゅう吸った。そうすると気持ちが落ち着く。赤ちゃんになたみたい。
「二人して両思いかよ。俺も混ぜてほしい」
 シロが言いながら耳の裏にキスをして、オレの乳首を捻り上げた。
「んんんっっく、うっあっ」
 身体を仰け反りまたイった。イき続けている。イくたびに脳が溶けてカウパーになってクロの腹に擦り付けている気がする。
「灯チャンもイこう」
「あっ……あ……」
「灯……違うの出てる」
 シロに性器を握られ、オレもイきたいと願うと、出たのはおしっこだった。それがどうしようもなく気持ち良くて、もうなんでも良かった。

「持ってた?」
「ポケットに入ってた。いつも持ち歩いてるんだな」
「ヤク中だな」
「自分用じゃないからタチ悪い」
 二人の声でゆっくりと意識が覚醒する。オレはベッドにうつ伏せで横たわり、二人はオレの服を漁っているらしい。
 そういえば、シロがオレの写真を持っていて調べているとか言っていた。でも二人は警察ではなさそう。
 脳みその半分でそう考えながら、もう半分は全然違うことを思っていた。
 オレはクロの腕を掴んでねだった。
「ねえ、もう二人でオレの事犯してくれないの?」
 散々開かされた穴は今もぽっかりと口を開けて、ひくひく疼いた。
「起きたんだ。二回めはもうないかな」
 背中を向けていたクロは身体をこちらに向き直り、ベッドに肘をついてそう言った。
「なんで……?」
「まあ、これはつまみ食いだからな。俺ら依頼されてお前のこと調べてたんだよ。だから本当は一回目もあっちゃいけないことだけど」
「クロは依頼されたターゲットを食うのが趣味のクソ野郎だからな」
「お前はAV出てたやつを食うのが趣味だろ」
 つまりどっちも悪趣味なクソ野郎だということだ。クロとシロが互いを罵り合いながらよく解り合ってるのが、羨ましく思った。
「ねえ、じゃあ二輪挿しはどっちの趣味?」
 オレが聞くと二人は目を合わせて少ししてから答えた。
「シロ」
「クロ」
 互いを指差して言う仲良しの二人に笑いながら、何故か胸が少しツキンと痛くなった。