おじさんはかわいい。

「これは、誤解なんだ」

「わざとじゃない」

「満員電車で」

「申し訳ないと思ってる」

「それに決してやましい気持ちがあるわけじゃない」

「君との距離が近いとか」

「いや、確かになんかいい匂いするとは」

「ち、違くて」

「これは生理的な現象であって」

「疲れマラってわかるだろ」

「一昨日から二徹で」

「それもこれも新人がミスしたせいで」

「ミスするだけならともかくすぐ報告すればいいのに」

「ミスした事それ自体をきつく叱った事はないし」

「それなのにどうしてミスを隠そうとするのか」

「いや、だから、そのミスの修正に時間がかかって」

「く、くさいだろ……」

「加齢臭とは言わないでくれ……」

「普段はもっと、きちんとしているんだ」

「うちの会社にもシャワーが欲しい」

「いや、だから疲れマラって奴で」

「君も男の子ならわかるだろ」

「あ、いや、若いからまだわからないか……?」

「確かに俺も若い頃は疲れとか感じなかったな……」

「あ、あれだ、朝勃ちならわかるか」

「意思に沿わない、生理的な現象なんだ」

「わかるだろう」

「授業中とか急になったりさ、」

「そんなつもりもないのに、って」

「だから、この、これは、」

「なんらやましい気持ちがあるわけじゃない」

「君に触れてしまい興奮しているわけでもない」

「こちらの意思で押し当てているわけでもない」

「次の駅で降りるから」

「身動きも取れなくて息苦しいくらいで」

「申し訳ないけれどももうしばらく」

「っ」

「ま、待て待て待て」

「なにを」

「う、いや、やめ、」

「な、やめ、なさい」

「はっ、あ、待ちなさい」

「き、きたない、から、」

「ん、んん……」

「はあ、あ、先っちょは……」

「っく、イく……」

「っっっ」

「……はあ、はあ、はあ、」

「ちが、ちがう、」

「断じて早漏なんかじゃ、」

「二徹してたし」

「そもそもこういうことは嫁と別れてからずっとご無沙汰で」

「自分で慰めるのもめっきりで」

「むしろ枯れてしまったかと」

「……いや、」

「君は、」

「なんでこんな……」

「ま、待ってポケットにハンカチが」

「あ、な、んで、」

「そんなもの舐めるなんて……」

「君は……」

「……」

「っふ、ま、まずい、な……」

「……なんで、こんなこと……」

「こんなの、こんなこと……」

『ーー駅、ーー駅、右側の扉開きます』

プシューーー。

「あ、駅」

「えっ」

「な、」

「まっ、どこへ……」

「はあ、はあ、」

「こんな、トイレの個室に連れてきて」

「なにをするつもりだ……?」

「もしや、脅す、脅すつもりか?」

「なんて、悪趣味な……」

「こちらは不本意であって、あんなこと」

「やめろ、上に乗るな」

「金か?金が目当てか」

「なに、なに笑ってるんだ」

「君は、」



 おじさんの口を塞いだ。

 おじさんは、かわいい。




「君は……なにがしたいんだ」


終わり