痛いの遺体の

「ピッチャービビってる」
「「「へいへいへい」」」
「ピッチャービビってる」
「「「へいへいへい」」」
「いーっち」
「ぐうっ」
「にーっ」
「がっあ」
「さーんっ」
「ぎいいっい」
 金属バットが骨を押し砕く鈍い嫌な音が響いた。
 第三回、代向(シロサキ)をイジメようの回決行中です。
「はああ、骨折るのって骨が折れるね?」
「誰が上手いこと言えと」
「いやいや、上手くねえから」
 カランカラン。バットを放り投げて、地面に這い蹲る代向の前にしゃがみ込む。狙ったのは腕だけだから、代向の左腕は腫れあがっていた。
「代向、痛い?」
「……めなさ、ごめん、なさ、ゆる、し、」
 口からよだれと鼻から鼻水を垂らして必死に命乞いする。前髪を掴んで顔を上げさせた。
「いいよ、許してあげる」
 俺が言うと、代向は目を丸くさせた。
「本当なら腕も足も1本ずつ折って、動けなくなってから獣姦でもさせようかなって思ってたんだけど。でも、代向がそこまで言うんなら」
「……え」
「許してあげる。死んでいいよ」
「……っ」
 代向の目がじわっと濡れて、ぼたぼたと泣き始めた。俺はそれがとても美味しそうに見えて、その涙を、瞳ごと舐めあげた。
「ひっう、っうう、……めて、ごめんなさ……やめて、くださ……」

「テッチてなんでそんな代向の事嫌いなの?」
 地面に蹲って死にたくないと零す代向の、今度は背中を狙ってバットを振り落とそうかと考える俺に、仲間の一人が聞いた。
 テッチと言うのは、哲治(テツハル)という俺の名前からのあだ名だった。
「嫌いなわけじゃないんだけど」
 バットの先で代向の左腕をぐりぐり押すと、代向は泣き声と呻き声を混ぜ合わせたようなくぐもった音をさせた。
 押すと鳴る人形みたいで面白かった。
「俺、代向の事ホントは好きなんだよね。代向見てると胸が爆発しそうなくらい心臓が動くし、頭に血が上って、代向の事しか考えられなくなる。朝も、夜も、夢の中も、俺は代向でいっぱいだよ」
「うわー、テッチがちで恋する感じ?」
「似合わねー」
「つか、そんな好きなのに?」
 ゴスッ。
「ぎゃあっっ」
「はは、感じてる?」
 左手の指をバットで潰すと代向が声を上げた。俺のすることに一々反応しちゃってさ。
「だってこいつ、俺がこんなに代向の事思って色々感情昂ぶってんのに、代向はなんの反応も示さないんだぜ?」
 視線で追ったって、軽く触れたって、こいつは顔色ひとつ変えやしない。
「こいつには感情が無いんだよ。ただの人形。だからちょっと、遊んでやってるだけじゃん」
 なあ?
 聞きながらバットをぐりぐり動かすと、代向は呻いて、それから失禁した。
「なんか今の方がよっぽど、いいや」
 俺が痛いことすればするほど、代向は反応を示してくれる。
「人形なんて言ってごめんな?もっと、お前が俺に応えてくれるとこ、見たいからさ」
 じゃあ次は、ここにしようか。
「もう少し付き合ってよ」
 俺は再び、バットを振り下ろす。


終わり