※作品傾向
ラブコメ
浮気
警官
ガチムチ
心中
高すぎるテンション
こうなったら、アイツ殺して俺も死んでやる! ってくらい切羽詰まった俺は、包丁を新聞紙で包んで、コンビニの袋に入れて、家を出た。
男同士の痴話喧嘩なんて。ホモきめぇwwとか、言われようがなにしようが。 許せない物は、許せないんだから。
発端は、彼氏の浮気だった。ノンケだったし、女の子に……ってんだったら許せ、ないけど、でも、仕方ないかなって思える。
でも男に、しかも、
「いや、俺、男とか初めてだし、後ろはちょっと……。抱きたいとか思うの、お前だけだよ。だから、抱かせて?」
とか言って俺とはタチしかしなかったくせに、浮気ではネコって。 しかもガチムチ兄貴が相手って。
ふざっっっっっっけんなぁ!!って、叫びたくもなるだろうがっ!
繁華街を外れた一角の、ボロアパート。
浮気に気づいたのは2週間前。ヤリチン野郎の彼氏のようすがおかしい。 あんまりシたがらないし(俺がヤりたがってるんじゃない、彼氏が万年発情期の猿なんだ)ヤってもセーシはやけに薄いし。
それに、そわそわと携帯弄ってるし、なにコイツ。 しかも帰ってこない日が多いし。たまに朝帰りしたかと思うと少しやつれて、シャンプーのいい匂い。
まさか、と思った俺はあとをつけた。彼氏が向かった先は、2丁目のゲイバー。
そこに来ることは、皆無だったのに(だって、俺以外の男になんて勃たねーし可愛いと思える奴なんていないから、男の溜まり場なんていきたくねーよ、って言ってたし)。
彼氏がそんな風に言うから、俺だって気を使ってあんまり行かないようにしてたのに。
「よう、マスター」
「ああ、いらっしゃい。今日は、いつもの?」
「ああ、頼む」
すっかり常連きどってるしー!!
そしてそこに現れた、ガチムチな兄貴。
「やあ、待たせた?」
「ううん、今来たところ」
嘘つけー!お前2時間前から居座って何杯も酒飲んでたじゃねえか!その2時間のあいだ俺は、しつこく誘ってくるやつを追い払うのに必死だって言うのに。
アイツは今来た男と公認で周知なのか、誰もお誘いしなかったのに。
まあ、あんなガチムチが相手だって知ったら、怖くて手出し出来ないかも……ってアイツは俺の彼氏だし!
「じゃあ、行こっか。今来たばっかりなのに、真っ赤に体を火照らしてる淫乱さんは、アソコが疼いてしかたないだろ?」
「言うなよ、恥ずかしいじゃんっ。……そうだけどさ」
ぎゃーーーーーー !
俺の前ではもっとかっこつけなくせにきもい、むしろきもいっ。 しかもノリノリだし。 でガチムチの言ってることがどストレートで吹いたけども。
俺はショックで、しつこく誘ってきた見知らぬ男と、一夜を共にしてしまった……。
それから俺は、また彼氏のあとをつけた。そして、2人の愛の巣(ボロアパートだけど)を見つける。
部屋の外に響くのは、ギシギシだけでなく、激しい喘ぎ声もだった。 入ってる、これ絶対入ってるよね?
彼氏の気持ち良さそうな喘ぎ声が近所迷惑なほど響いていた。 たぶん窓を開けて、あえて聞こえるようにしているんだと思う。変態ガチムチ野郎め……!
ふと気づくと、その声をオカズにしに来た野次馬で辺りがいっぱいになっていた。
あまりのショックに、俺はあのゲイバーに行っていて、またしつこいあの男と一夜を共にしてしまうのだった。
そして今日。俺は意を決して、アイツと心中する事に決めた。
アイツが浮気したように、俺も浮気してしまったんだ。 もういっそ二人で死ぬしかない。
極みまでいってしまった俺の思考回路は、俺にも理解不能だった。
俺はアパートの物陰に隠れた。 彼氏ならいざ知らず、ガチムチ野郎ともし出くわしてしまったら、失敗するかもしれない。
アパートは相変わらずのハイパーギシアンタイム。 イライラむかむかしながら、彼氏が現れるのを静かに待った。
1時間ほど経って、ようやくギシアンが終わる。 そして玄関の開く音。 どっちだろう、あんな激しいエッチのあとじゃあ、腰が立たないよな……じゃあ、あのガチムチ野郎だろうか?
かん、かん、かん、かん。
鉄の階段をゆっくり降りてくる音。 それは間違いないく、俺の彼氏で。
「うおおおおおおお」
「は?っっっつわーーーー」
俺はビニールから包丁を抜き出し、彼氏、いや、元彼氏に向かって突進した。 だが彼氏に避けられてしまう。
「お、お前なんでここに……!」
「うるさい!浮気しやがってちくしょー!」
「ま、まて、これには訳が……」
「訳なんかあるか、ばか野郎!あんな激しく喘いでたくせにっ」
「聞いてたのか?!」
「聞いてたのか? じゃねーよ! この近所まで響き渡って、野次馬がオナってるぐらいだ、バカ」
「そんな……」
「照れてんなバカ! 殺してやる! そんで俺も死ぬ!」
「待て、早まるな」
「うおおおおおおお」
「何してるんだ! やめなさい!」
どんっ。 俺は強い衝撃にひっくり返る。包丁を握った手が捻りあげられた。
「いててててて」
「き、君は……」
痛みに声を上げ、包丁が手から落ちた。 そして体勢が変えられ、後ろ手に拘束されてしまう。
「殺人未遂で現行犯逮捕する」
かちゃん。 音がして初めて気づいた。 俺をさんざん痛め付けたのは、お巡りさんだったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
声を上げたのは元彼氏だった。 気づくと、騒ぎを聞き付けたガチムチ野郎も階段を降りてきていた。
「君にもあとで事情を聞きたいので」
「あの、そいつ、離してやってください。本当はこんなことする奴じゃないんです。……おれが、浮気をしてしまったから、それで……こいつ……」
言いながら元彼氏は泣き出してしまった。泣いてる彼氏なんて、俺は初めて見た。 それをガチムチが、優しく抱き寄せ、元彼氏は寄り添った。
それを見て俺は悟った。 俺とアイツとはもう、やり直せないんだと。
「しかし、彼は君を傷付けようとしたんですよ……?」
「おれが悪いんです……なにも言わず、いきなり浮気して、一途に思ってくれたのに、踏みにじって……だから、気がすむなら、おれは」
「もういいよっ」
もう聞いていられなくて、俺は声を上げた。 拘束された腕が、ちょっと痛い。
「もういいよ……わかったから……幸せになれよ」
俺は、元彼氏にそう言って、警官の方を見た。 もう気がすんだから、どこにでも連れてけ、目でそう訴えてやる。
「お巡りさん、おれは被害届を出す気はないんで……離してやってください」
元彼氏はそう必死に言いながら、ガチムチにしがみついていた。 複雑な気分になって、早くこの場から逃れたかった。
「……わかりました、起訴はしない。その方向で話は進めますが、決まりですので。君、ついてきなさい」
「……はい」
警官が優しく言うので、俺はそれに従う。なんにせよ、この場から去れるならなんでもよかった。 俺たちは、元彼氏の視線を感じながら、その場を後にした。
少し離れたところで手錠が外される。
「まさか、あんなに切羽詰まってたなんて知らなかった。相談、してくれればよかったのに」
警官が急にフランクに話しかけてきたからびくっとする。 きょとんとしてると、にこっと笑ってきた。
「……あの、どこかで?」
「やだな、もう忘れちゃったの? 2回も体を重ねたって言うのに」
警官が言いながら、帽子を外しにこっと笑った。
「……あ、あーーー! あんた、あのしつこい……」
「しつこいって……まあ、確かに、抜かずの4連発はきつかったかな?」
「ばっ……そっちじゃねーよ!」
警官は、あのゲイバーで出会った男だった。 全然気づかなかった、というかヤってる最中は上の空だったから、記憶にほとんどなかったんだけど。
「はー……あんた、お巡りだったんだな。お巡りにゲイ多いって聞くけど、マジなんだー」
「さー、それはどうか知らないけど。ところで、どう?」
「は? 何が?」
「オレ今フリーなんだ。君もフリーになったんだろ? 付き合おうよ」
警官が俺の手を握って言う。 さすがにさっきの今じゃ、答えに戸惑ってしまう。
「オレ、お巡りさんだからね。誠実さは、保証するよ?」
「……ゲイバーで、ナンパしてたのにか?」
「そんなの、一目惚れしたんだから本気でいったんだろ。一途だし。夜の方ももちろん満足させるから」
「……ふはっ」
飛び抜けて明るく言うから、俺は笑ってしまう。
「わかった、わかった。お付き合い、させていただきます」
「じゃあ今晩、手錠プレイね」
「仕事しろw」
終わり