手のひらにイエロー

「先生、」
と、呼ばないで欲しい。
 僕の人としての尊厳や人格など、全て奪い去り、惨めな生き物にしてしまうくせに。
「先生」
 そうやってまた、僕が何者で、君にとって誰なのかを思い出させる。
「俺の手に、してください」
 ストーブの上で水の入ったヤカンがシューシューと音を立てている。温かいと言うには少し足りない部屋で、着物にも関わらず大股を開かされ、外気に触れた内股が鳥肌を立てた。
 下着が少しずらされて、彼の手が僕の萎えたそれをやんわりと握った。彼の手は室温よりも低く冷たいのに、辛うじて血の通った熱があった。僕の身体はその僅かな熱に反応しそうだった。
「先生」
「アッア、やめて、くれ……」
 促すように、彼の指先が先端の穴を詰った。キツい刺激に膀胱から込み上がるものを感じる。
「見せて、」
 彼は耳に甘く歯を立てた。吐息が鼓膜を揺さぶると、本当に自分の声なのかと疑いたくなるような甘えた声が出てしまった。
 恥ずかしい。既にもう、これ以上ない辱めを受けているのに、彼はその上にさらに恥を塗れというのだ。
 彼の指は先端の穴を塞いだり解放したり、軽くトントンと叩くように刺激する。その度に僕は、言い知れぬ不安と甘い快感に声を零した。
「先生」
「ああっく、あ、あ」
 繊細なそこに爪を立てられ、悲鳴を上げた。出たのは声だけでない。
 しょろしょろと、か弱い音を立てながら僕の粗相が彼の手を汚した。
「ああ……ああ……」
 出してしまうのをやめたいのに、止まりそうになると彼の指が先端を撫でる。そのたび、今しがた与えられた強烈な痛みを思い出し、身体が竦んで、従順になった僕は身体を弛緩させる。
 途方も無い放尿は、彼の手のみならず畳も汚していく。それは大きなシミになって、目にするたびに今日のこの瞬間を思い出させるのだろう。
「先生」
 少し興奮した声で彼が僕を呼び、芸を覚えた犬を褒めるみたいに頬を寄せ、軽くキスをする。
 そんな事が嬉しい僕は最後の一息を彼の手に放つ。
「可愛い、良くできました」

「それでは原稿、いただきますね」
 彼はそう言うと、部屋から出ていく。
 先ほどまで僕のはしたないソレを握っていた手に、原稿の入った袋を握っている。それを思うと恥ずかしいやら、なにやらで、僕はまともに彼の顔も見れず、その背中を見送ることすらできない。
 部屋の中央でヤカンがシューシューと鳴いたが、換気のために窓や襖を開け放った部屋は酷く寒い
 それなのに僕は、黄色に染まる彼の手を思い出すと身体の奥が火照るような、そんな熱に襲われた。

終わり