カウントダウン

 5、4、3、2、1、カチン。
「っ……」
 教壇に立つ、教育実習生の字原(アザハラ)の顔が赤く染まった。生徒たちはちょうど、問題集から二問ばかり解いているところだから、字原の顔が何色に染まってようが気付きはしない。
 そんな字原は口元を手で押さえ、こちらをキッと睨みつけた。そんなさまが面白くて嘲笑う、俺はなんて悪い先生だろう。

 字原は高校、大学の後輩だった。先輩先輩と親鳥についていくひよこのように懐いていたから可愛がっていたら、教師になった俺に着いてきた。結果今こうして教育実習生と教師として対面している。
 そろそろ解き終わった頃合いを見計らって、カチンとスイッチを切る。字原の下の穴には、遠隔操作できる小さいローターが入っていた。前立腺からはよけておいたが、公衆の面前でこんなはしたない事をしている、背徳感で興奮は増すだろう。
 俺がローターのスイッチを切ると、もう一度睨みつけて、ホッとため息をついた。
 なぜかくしゃくしゃになった問題集を見ながら、黒板に答えを板書していく。その後ろ姿をじっと眺めた。
 背筋から臀筋まで引き締まっている。教師なんて道を選びながら、字原はスポーツで国体にまで上り詰めた男だった。チーム競技だから自分一人の力ではないと謙虚に言ったが、字原がキャプテンを務め、活躍に次ぐ活躍を見せた結果だから、それはもはや謙虚よりも消極的という方が正しく見えた。
 周りからも散々言われただろう、プロにはならないのかと。なぜ教師なのかと。
 しょうもない俺なんかのあとを追っかけてきた、お仕置きだ。
 カチン。
「っっ」
 板書していた手が止まり、臀部の筋肉がキュッと締まって身体に力が入っていることが一目瞭然だった。生徒たちの殆どは退屈そうにぼーっとしていたが、教育実習生の急な変化に、おや?と思っているものも少なくはない。
 にわかにざわつき始める教室。微かに震える背中はスイッチを止める事を待っているようだったが、俺は止めるつもりがなかった。
 そのまま淫らに崩れ落ちたって構わない。
「……で、」
 気合いで持ち直したのか、チョークを半ば叩きつけるように板書する。
「次のページ開いて。ここの定理だけど」
 字原は板書しながら教科書を読み進める。さっきからずっと、背中を向けている。
「……となるので、」
 こちらを振り返った字原は教科書を下ろして、不自然でない形で股間を隠している。
 お前、勃起しているんだろう。
 こちらを見た字原を笑ってやると、字原は口パクで何か言った。多分、「スキ」か「シネ」で、後者の確率が99.999%だった。

 キーンコーンカーンコーン……。
「じゃあ次は問題集65Pの問1から答え合わせするから、やっておくように」
 終業のチャイムが鳴り響き、次は昼休みだったため、生徒たちもさっさと自分の用事に移っていく。
 俺はスイッチを切って、字原のもとへ。
「途中手が止まっていたけど、なにかわからないところでも?」
「ええ、穂先(ホサキ)先生にちょっと聞きたい事を思い出したので」
「なんでもどうぞ」
「いえ」
 厚くて熱のこもった字原の手が、俺の肩を掴んだ。そのまま肉を剥ぎ取られてもおかしくないほど力がこもっている。
「二人きりで聞きたいので」

 さすが体育会系というべきか。半ば引きずられる形で、字原に数学準備室まで連れ去られる。バタンと乱暴に扉が閉められると、準備室に置かれた机に性急に押し倒される。
「先輩、なんの意地悪ですか」
 太ももに股間の滾りを押し付けられた。熱くて硬くて大きい。字原はそんなやつだ。
「字原は真面目すぎるから」
 股間を布越しに指でなぞると、字原はぎゅっと目をつぶった。
「先輩は、おれが教師になるの、反対なんだ」
「はあ?なんでそうなるんだよ」
 反論しつつも心を見透かされたようで、俺はドキッとした。
「おれが不祥事でも起こして教師になれなきゃいいって思ってる」
 睨みつけてくる字原に、俺は苦笑した。間違いなくその通りで、言い訳のしようもございません、とばかりに。
「いいですよもう、不祥事起こしてやる」
「う、うお、ま、待てよ字原」
 ベルトがするんと抜かれたと思うと身体をひっくり返され、腕を背中で纏められる。
「教育実習生が教師を強姦」
 字原が耳元で囁いて、俺は血の気が引いた。スラックスとトランクスがするっと降ろされ、むき出しになった右ケツが揉まれる。
「でも気持ちよければ和姦だ」
 そんなわけあるか、文句を言おうと振り返ると、中指を舐める字原が淫靡に微笑む。
「覚悟しろよ、先輩」

 字原の中指が、抜き差ししながら中に入ってくる。唾液の滑りじゃ足りなくて、それでも奥まで押し込められた。尻全体を揉むように手が動く。痛くはない、でも違和感が強い。
「は、はあ、はあ、お前さ……」
 曲げた指が内壁を押した。穴が無理やり開かれて、フッと息をかけられると奇妙な感覚だった。
「よくこんなの、ずっと我慢できたな」
「ん?」
「ローター」
 スイッチこそ切ったものの、今も字原の中にはローターが入っている。こんなずっとうんこがケツに挟まってるみたいな感覚、俺には耐えきれない。
「ローター欲しいの?先輩、欲しがりだなあ」
「は?言ってな……」
「待ってね」
 かちゃかちゃと字原がベルトを外す音がする。きぬ擦れと、吐息のような声。それから、尻に宛がわれる温もりを持ったおもちゃ。
「っう、うわ、うわっ」
「おれの中に入ってたローター、先輩にお下がりしてあげる」
「う、むり、むり」
 謎の液で濡れたそれはぬるっと穴に入ってくる。小さいながら、内壁をずるずる擦っていく。なんだか気色が悪い。
「ローター入ったんだから、おれのも入るでしょう」
「ばか、入るわけ、なっい、っい、痛い痛い痛い」
 追って押し入る字原のソレに俺は悲鳴を上げた。ゴムでもつけたのか、ケツ穴が濡れるのがわかった。
「入んなくても……入れる」
「ぐっう、う、無茶いうな……」
 かなり力任せに、浅く出たり入ったりを繰り返す。ずぶっと奥まで刺さって、ローターが入ってはいけないところまで押し上げられた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、」
 なんだか泣きたくなってきた。ケツいっぱいの狂気、息をするたびに内壁が収縮して、その形をまざまざと思い知らされる。
「先輩、おれがイったら抜いてあげる。早くイって欲しいでしょう?」
「ううう……」
 中に入ったまま奥をぐりぐりされて、頭がおかしくなりそうだった。おかしい、こんなの、だって、俺が絶対入れる方だと思ってたのに。
「ローターのスイッチ入れようか、先輩。そしたらすぐイくと思う」
「そっんなの、そんなことしたら、」
「5、4、3、」
「あっう、う、うう、」
 字原がローターのスイッチを、俺の目の前に見せつける。指がスイッチの上に乗っていて、今にも入れられそうだった。
「2、1」
「あああっ死んじゃうっっくああ」
 カチン。

「んんゆっんん」
「先輩声大きいです」
 俺は机の上に正座して、後ろから字原が突き上げてくる。口を手で押さえられなきゃ、俺は泣いて喚いて叫んでいただろう。
 っていうかローター入れたらすぐイくって言ったくせに全然イかないじゃないかこの遅漏野郎!
「んふっんふっ、うっ、」
「あれ?先輩の方がイきそうですね」
「んんんっ」
 緩く勃起した俺の息子を字原が鷲掴みにする。金玉を揉みしだいて、力強く根元から擦りあげられればすぐに果てそうなほどになった。
「一回イったら、もっと良くなりますよ」
「あああっん、んっっう」
 早い上下運動に、俺は呆気なく果てた。それに合わせるみたいに突き上げられる。
「んひいっっぐっんおっうおおっ」
 その時だった。中の、時々掠められるとおかしくなりそうなところを強く押される。イった余韻がずっと続くような、イき続けているような、それが終わらないような。
「先輩の前立腺、ここ?」
「いああっ……ぐ、はあはあはあはあっっんんんぐうう」
 字原の前立腺は散々弄んだくせに、自分がされると、ああんおかしくなっちゃう、なんて気持ちが良くわかるようだった。
 ああ、おかしくなりそう。
 頭が真っ白に弾けて、原子レベルで全身が喜ぶ。
「さあ、イって」
 もう一度突かれて、俺は仰け反り字原に身体を預けながら、イった。
 そして意識は、揺蕩う世界に溶けていくようだった。

「不祥事で捕まるとしたら、おれと先輩、どっちですかね」
「まとめてクビだよ馬鹿」

終わり