困り顔/「それ以上はやめてくれ」

 運命なんて信じていない。
 僕に父親はいない。オメガの母は発情期にフェロモンを撒き散らし、顔も名前も知らないアルファに犯され、僕を身篭った。
 その時つがいになってしまったけれど、相手のアルファは気の迷いだったと、つがいを破棄した。
 母は何度も死のうとした。けれど、母にとっては運命で、大事なつがいで、一生の相手だった。だから、身篭った僕を殺す事が出来なかった。
 僕を産んでようやく、母は死んだ。
 だから、運命なんて信じていない。

 僕は施設で育った。オメガの子供だから僕もオメガだと、他から引き離されて、虐げられて、隅っこで生きてきた。
 ここまでして生きる意味はなんなのかと、僕は幼いながらに思った。
 母のことも、自分のことも、この世界の全てが嫌いだった。

 二次性徴がおとずれると、アルファ・ベータ・オメガのどの性であるか、血液検査で調べる事が出来た。
 その結果、僕はアルファ性である事がわかった。
 その日から僕は施設で一番の扱いを受けた。あまりの変化に、僕は吐き気さえ催した。大人たちの、周りの、世界の、気持ち悪さに反吐が出そう。

 僕がアルファだとわかる前から、唯一施設で仲良くしている男の子がいた。天矢(テンヤ)も親はいなかったが、周囲からは一目置かれていた。
 なにをやらせても一番うまかったし、どこか大人びている。なにもかも知っている風の彼は、きっとアルファだろうと誰もが口々にしていた。
 生まれた瞬間から、両親以外の全てを手にしている。天矢はアルファだった。

 僕は天矢が好きだった。オメガだと揶揄されていた僕に臆せず、誰よりも一番優しく接してくれていた。
 そんな僕と天矢との関係を、周りの誰もが良く思っていなかった。
「母親みたいにフェロモンでアルファを虜にするつもりか」
 そんな風に言われていた。

 それが、それがどうした。僕はアルファだった。天矢と一緒の、アルファだった。
 僕はこの時ほど、生きていてよかったと思うことはない。

 15になると施設を出て、私立高校に入ることになる。アルファはそれだけで特別優遇がなされていた。学費はもちろん、生活費すら、国が保証してくれる。
 全寮制で、アルファには個室が与えられていた。けれど僕はいつも天矢と一緒に過ごしていた。天矢も僕と一緒にいた。
「僕は天矢が好き」
「俺も……施設の時から、きっとずっと好きだった」
 運命なんて信じていなかったけど、僕は天矢の事が好きだったし、天矢も僕のことが好きだった。だからきっと結ばれる運命なんだと思った。

「どうしよう、雨音(アマネ)、俺、運命の相手を見つけたかもしれない」
 ある日天矢が言った。視線の先には僕でない人がいた。廊下を歩く、明るい金色の髪と色素の薄い肌、高揚した頬、なぜか背中にぞくりとする、僕を興奮させ、嫌悪させる感覚。
 あれはオメガだ。僕は一目見てわかった。僕を産んだ母がそうだったから。
「天矢」
 僕は天矢の手を握った。
「あいつはオメガだ。フェロモンにやられてるだけだよ、そんなの、運命なんかじゃない」
 天矢の手は僕の手を握り返してはくれない。僕は不安でたまらなかった。
「天矢、好きって言ってくれたじゃないか、いやだ、行くな、行かないで、天矢、天矢……」
 僕の手を振りほどき、行ってしまう天矢に縋り付く。天矢は困り顔で、僕の手を引き剥がす。
 これが運命なら、僕は呪われている。

 だったら僕は、この世界を呪ってやる。

 彼には、金色の髪に薄い色素、高揚した頬に学校の誰もが性的に興味を持っていた。
 彼はやはりオメガだった。
 存在するだけで甘い匂いを放つような、彼は発情期を迎えていた。
 僕の部屋で、両手両足を縛られ、口に猿轡を嵌めて、淫らによがり狂う。
「な、んだこれ、」
 そこへ天矢を招待した。
「天矢。僕はきっとアルファのなり損ないなんだ。ほら、オメガの血が入ってるから。純粋なアルファほど、オメガの発情期に当てられない。それに、僕はきっと、天矢とつがいになりたいって、なれるって、思うんだ」
 オメガのフェロモンで天矢が高揚していくのがわかった。
「天矢、僕を見て」
 僕は天矢の顔を手で挟み、じっと目を合わせる。僕だけを見て欲しい。僕はいつだって、天矢だけを見ている。
「お願い、天矢、僕を見て……運命の相手は誰か、ちゃんと考えて」

 発情期のオメガのフェロモンは強力で、それにあてられたアルファは暴力性が増した。
 僕が願ったから、天矢は僕をベッドに押さえつけ、後ろから何度も、何度も腰を打ち付けた。
 内臓が犯されて、苦しくて、何度「それ以上はやめてくれ」と懇願しそうになったことか。
「あっっぐ、う、」
 うなじを噛み付かれて僕は身体がビリビリと痺れるようだった。
 つがいだ、僕たちつがいになったんだ。
 アルファ同士がつがいになれるのか?でも僕はオメガの血が流れてる。
 母のことも、父のことも、この世界の全部を呪ったけれど、今だけは、僕はこの身体で生まれたことを喜んだ。
「あ、あ、」
 噛み付かれながら深く穿たれる。尻の穴から脳天まで貫かれたようだった。苦しかったのに、今では熱くて気持ちよくておかしくなりそうだった。

 天矢、僕は君が好きだ。一生、ずっと。
 僕が本当はオメガで、だからアルファの天矢に惹かれたのかな。
 天矢と結ばれるなら、それが運命なら、僕は運命を信じるよ。


終わり