「先生、こいつうんこ漏らしました」
おれの隣にいたそいつが手を高々と掲げ、声高に叫んだ。その頃おれは脂汗をかいていた。
そいつの言う通りうんこを漏らしたから、というわけではない。今にもその通りになりそうだったからだ。
「おいふざけんなよ……」
おれは低い声で唸るように言った。おれはまだ漏らしていないし、漏らすわけにはいかない。それでも耐え難い腸の捩れるような痛みに呼吸は荒く、眩暈さえしてきた。
どうしてこんなことになったんだ。
「早く漏らせよ」
そいつはおれだけに聞こえるように言った。一体どういうことだ。漏らせよ、って。
「死んでも漏らすか……」
誰が小6にもなって学校の授業の最中にうんこを漏らすというのか。おれはトイレに行きたい。おれはトイレに行きたい。
「なあ、昼に牛乳あげただろ。あれな、本当は一週間前に消費期限の切れたやつを室温で保存したのち、お前にあげるためにクーラーボックスまでわざわざ用意して冷やして持ってきたんだ。わかるか?俺はお前が心置きなく教室でうんこをぶちまけられるように、念入りに計画を立てて準備してきたんだよ。だから、早く、ぶちまけろ」
「は……?いみ、わかんね……」
腹が痛すぎて耳がおかしくなったのか?言っていることがキ⚫︎ガイ過ぎて聞かなかった事にしたい。
「早く、漏らせ」
バシンッ。
「ひぎっ」
ぶりゅっ。
ケツを思い切り叩かれて身体に力が入った。嫌な音と、穴が燃えるように熱くなる。そんな、嘘だ。
「ほら……」
そいつは悪魔のように耳元で囁く。
「みんなが見てる前で、うんこしろよ」
「ひっ……」
ぐりゅりゅ。
そいつの手がおれの肩を掴み、爪が食い込むほどの力を入れてくる。
「あっ……いやだ……あっ、あ、あああ、やだ、あ、」
ぶしゅ、ぶび、ぶびびっ。
汚い排泄音。ズボンの中を満たしていく柔らかい温もり。
「み、みないで、やだ、あ、やだ、みるな、ああ、ああああああ」
泣き叫んだら、ケツに力が入って余計に加速する。
この教室でただ一人嬉しそうなのは、そいつだけだった。