何が悲しくて、大学のトイレでケツ丸出しにしながらジーンズを洗うのか。の境地に達しながら、黙々とジーンズの汚れを必死で洗った。
洗ったところで、こんなビショビショのジーンズ穿ける気がしない。
「おれ、もう着衣脱糞したくねえわ」
ため息混じりで言いながら、自分の言葉の可笑しさに気付く。逆に誰が着衣脱糞したがるんだ。普通、したくない。
「なんで?気持ち良さそうな顔してただろ。さっき」
「それは……」
キイ。弁明しようとしたその時、トイレ入り口の扉が立て付けの悪さを訴えながら開く。
「うわ、ホモ」
キイ。入ってきた男はそう言うと出て行った。
「……お前、ホモだったの」
おれが言うとあいつは笑った。
「いや、状況的にお前がホモだろ」
ああ、確かに。おれケツ丸出しだし。
「おれホモじゃねえし」
「俺もホモじゃねえよ」
おれがうんこ漏らすのを見るのは好きなくせに……あいつはホモじゃないらしい。なら何なんだ。
「そんなことより、さっきの続き。着衣脱糞なんで嫌なんだよ。さっきなんか小便漏らしてよだれまで垂らしそうな程気持ち良さそうにしてただろ」
そんなことはないと思うが、念のため口元を拭った。
「そりゃ、我慢に我慢重ねたものを出す瞬間はいいけどさ。ズボンなりパンツなり、穿いたまま漏らしてみろよ。あったかくて柔らかいのがケツ中にべったりくっ付くんだぜ。気持ち悪くて泣けるよ」
漏らした物が冷えていくのと同時におれの頭も冷えていく。気持ち良さよりも気持ち悪さ、汚さが即座に勝ってしまうのは嫌だった。
「なるほどな。理解した。ケツ出せよ、洗ってやるから。あ、もうケツ出てるか」
あいつは一人で言いながら、いつの間にか蛇口に着けたホースの先を持ち、おれに這い寄る。
「さっき洗ったからいいよ」
トイレに来て一番、個室のトイレットペーパーでケツは拭いた。
「ちげえ、中だ」
バチンッ。
「いっ……」
振り上げられた左手がおれの左ケツを思い切り叩いた。そのまま握るように揉みしだき始める。あいつは割りとケツフェチなところがあった。
「つまりお前はさ、うんこを開放的にブチまけたいって事だろう」
「違う、普通にトイレでうんこしたいだけだって」
都合の良い解釈を否定しながら、ケツにホースの先が当てがわれる。硬い先端がぐりぐりと穴をえぐろうとした。
「入んねえな」
「入ってたまるか……あっ、あっ」
おれが言った即座にあいつの指がねじ込まれた。潤いが足りないそこには第一関節より先は入らないが、そのままで指を動かされる。入り口をひっかくような動きが不快で、逃れようとするが腰ふりダンスを披露するだけになってしまう。
そんな姿を嘲笑うかのように、あいつの指が力任せに穴を開いた。ねじ込まれるホース。指は入れ替えに出ていく。
ホースは少しだけ入るとそこで止まった。あいつの目的はホースでおれを犯すことじゃあないからだ。
ぶしゅっ。勢いよく放水され、ケツの中にみるみる水が入っていく。おれは洗面台にしがみ付きながら、満たされていく水の量と速さに怯えた。腸が爆発してしまう。
「ううっ、あ、強い、っやめろ、強いっっ」
水量を弱めてほしいのにあいつは聞く耳持たない。
「大丈夫だって。それよか声抑えろよ、また誰か来てホモって言われるぞ」
「っく、う、う、」
そう言われるとおれは歯をくいしばって声を堪える。けれどホモと呼ばれなくたって既にうんこ男のあだ名は消えないんだ。どっちがマシだろう。
「ううあ、あっ、もう無理無理無理っひいい」
あいつの腕に縋り付くと、あいつはホースが抜けないよう下から突き上げてくる。腸が突き破られるんじゃないかと恐怖した。
「出したい?」
「出したい、出したい」
「じゃあいいよ」
「うっあ」
ぶしゅっーー。ホースが引き抜かれるとケツから水と中に残っていた汚物が混ざった汚水がぶちまけられる。おれの意思に関係なく出ていくそれが気持ちいいのかわからないが、強い衝撃だけはあった。
「じゃあもう一回」
「あああ嘘だろっひっ、無理だからケツ壊れちゃう」
「オムツプレイ?いいね、そそる」
熱のこもらないあいつの言葉がどこまで本気なのか計り兼ねる。少なくともおれのケツが壊れてもいいとは思っているらしい。さっきよりも深く入れられたホースは、さっきよりも多くの水を注いで中を満たした。
「はあはあはあ、あっ、くっ、ううう」
「水止めるけど漏らすなよ」
合図のようにパチンとケツを叩かれ、水を吐き出すのをやめたホースの隙間から水が出ないよう括約筋に力を入れる。
「ホース抜くからな、まだだぞ」
犬に待てをするように、あいつが手を掲げ、ゆっくりとホースが抜かれていく。さっきは勢いよく抜かれたから感じる暇もなかったが、異物がゆっくり抜けていくのは背筋をなぞられるようにぞくぞくした。
「ケツ穴きゅってなってる」
「触んな、ぶちまけるぞ」
穴を指でさわさわと弄られ、その刺激で力が緩まりそうだった。するとあいつは笑って言う。
「いいぜ、俺の手、汚してみろよ」
「……っん、あ」
あいつの真意がわからない。半ば脅し文句的に言ったのに、あいつを見るとやっぱり笑っている。穴に触れる指はツンツンと穴をノックした。
ごくり、喉がなる。いいんだ。
「っは、あ、あっ」
ゆっくり力を抜く。それだけじゃ足りなくて、おれは腹に力を入れて、自ら水をぶちまけた。あいつの手に排泄している。
「んんんっっ」
「靴までビショビショだ」
「そりゃ俺もだよ」
「でもお前はケツ丸出しじゃないだろ」
「そりゃそうだろ」
よく分からないプレイを終えたあと、個室の便器にそれぞれ腰掛け少し休む事にした。個室の扉は開け放していて、トイレに人が来るたびに、「あっホモ」「えっホモ?」「よっ、うんこ男」と呼ばれた。
なんなんだ一体。
「便器座ってるとなんかうんこしたくなるよな」
「まだ出したいのか」
「いや、もう出ないけど」
だろうな、とあいつは笑った。でも、冷えた腹がキュルキュルと言い出している。帰る頃には腹を下すかもしれない。
「もう帰るか」
おれは仕方なく立ち上がり、扉にかけていた乾きそうもないジーンズを手に取る。
「ケツ丸出しでかえんの?」
「捕まるわ。無理矢理にでも穿く……うわあ」
濡れて冷えたデニム生地の気持ち悪さったら。
「俺がチャック閉めてやろうか」
「やめて」