流石にやりすぎてしまったかな、と反省をして翌日。
内開きの柿狗くんの部屋の扉を押しても扉が開かなかった。何かで塞がれているらしく、体重をかけて無理やり押し開く。
扉を塞いでいたのは無惨な姿になったパソコンと、その他放送機器。後始末を終えて僕が帰ったあと、扉の真横にあるパソコンデスクからパソコンを叩き落としたらしい。
ベッドにはまん丸になった掛け布団。その中に柿狗くんはいるのだろう。
僕はパタンと扉を閉めて、ベッドに腰を掛ける。
軋んだベッドに、まん丸の掛け布団がびくりと跳ねた。
僕が怖いのかな。
掛け布団の上から、頭があるであろう辺りを撫でる。芋虫みたいに丸まった、こんなに可愛い柿狗くん。
家から出られず、部屋から出られず、今度は布団から出られない。どんどん居場所を無くして、その中で泣き濡れているのだろうか。
「柿狗くん」
掛け布団の端を掴み、引き剥がそうとするが、中で柿狗くんが必死に抑えているようだ。強い力で抵抗している。
でも、布団の中って息苦しいんだよね。自分の吐いた二酸化炭素で暑くなってくるし。
だから、そんなところから早く顔を出して欲しかった僕は、中にぐいっと手を入れた。
「いたっ」
指先を強く噛まれて、驚いて手を引き抜く。噛まれた中指からは血が出ていた。
掛け布団はますます強い力で抑えられている。
動物のような行動に、僕は憐れみと愛おしさしか感じない。
僕はぽんぽん、と二回掛け布団を軽く叩き、ベッドから立ち上がる。そしてそのまま柿狗くんの足側に移動し、一気に掛け布団を捲りあげた。
姿を現したのは、四つん這いに蹲る柿狗くん。
電気の光が眩しいのか、目をつぶっている。
握っていた掛け布団の端を手繰り寄せ、顔を押し付ける。
隠れると言うよりも、縋ると言う方が正しい。
「柿狗くん」
僕は柿狗くんの足の間に正座し、後ろから抱き上げる。
「やだ」
振りほどかれて、柿狗くんは掛け布団の上にごろんと転がり丸くなる。それなら仕方ないと、僕もごろんと横になり、後ろから抱き締めてあげる。
柿狗くんの足に自分の脚を絡め、胸の前で固く握った拳を上から握り、細く手折れてしまいそうな首筋にスンと鼻を押し当てる。
柿狗くんはやだやだと、泣きそうな声で呟いた。
僕はずっとこのままでいたかったし、もっと泣き叫ぶような酷いこともしたかったし、とろとろに蕩けるまで甘くしてあげたかった。
「何がやだ?」
柿狗くんの、軽く汗でじっとりする後頭部に額を押し付ける。
腕の中の柿狗くんの、速すぎる心音が徐々に落ち着いていく。
「やだ……」
拗ねた子供みたいな柿狗くんに、僕は笑みがこぼれる。
僕はこんな柿狗くんを、可愛いとか愛しいとか、そんな言葉でしか表現できない。
「僕がやだ?」
僕が聞くと、柿狗くんの体がビクッと跳ねる。
けれど、言葉にはしない。
僕がやだって言ったら、怒るとか、酷いことするとか思っているのだろうか。
ちょっと心外だし、へこむし、悲しくもなる。
「……じゃあ、生放送がやだ?」
「……ちょっと」
おや、ちゃんと答えてくれた。
ちょっとやだって事は、生放送自体は嫌いではないという事だろうか。
でもあんまり掘り下げると柿狗くん嫌がるだろうから、次の質問にしよう。
「搾乳機……昨日使った機械がやだ?」
「やだ」
おっと、これには即答だった。
見てる側も、少し引くほどの威力だったものね。
「また使いたいって言ったら、ダメ?」
「やだやだやだやだやだやだやだ」
「わかったわかった、わかったよー、柿狗くん」
腕の中で暴れようとする柿狗くんを、さらに強い力で抱き留めて、耳元でゆっくりと宥めてあげる。
泣いてしまったのか、ひくひくとしゃくりをあげていた。
「じゃあもうアレは使わない。柿狗くんが嫌なら、僕は使わない。ね」
僕が言うと、柿狗くんはうんと頷く。
全部が嫌になってしまったのかと僕は不安になったけれど、一番の原因は搾乳機のようでよかった。
他の、カテーテルやバイブなんかについても聞くことは出来たけれど、聞かなかった僕は卑怯者だ。
多分好きではないけれど、搾乳機ほど嫌というわけでもないのだと思う。
きっと僕が柿狗くんの傍にいることが、柿狗くんを雁字搦めにしているのだろう。
親から虐待される子供は、それでもそこに居場所を持ってしまうという。
柿狗くんの生放送も、柿狗くんの居場所の一つになってしまっただろうし、それを嫌がれば「僕」という居場所も失ってしまう。
それが怖い柿狗くんは、嫌とも好きとも言えない。
「その代わり僕が手で扱いてあげるから、しばらく精液集めてもいいでしょう?」
「んん……なんで」
柿狗くんの股間に手を当て、まだ柔らかい柿狗くんのお○んちんを指でなぞる。
「んー、柿狗くんを気持ち良くするため」
親指と人差し指でラインをなぞるように上下に動かすと、少し勃ち上がってきた。
「アレ使わないなら……いいよ」
柿狗くんのお許しが出たので、僕はパンツに手を入れ、直に扱いてあげる。
僕は僕のしたいことを終えるまで柿狗くんを手放すつもりはなかった。
でももし「生放送」が終了をした後も柿狗くんの傍にいるかと問われたら、今は答えられそうにもない。
卑怯な僕はそれらに目をつぶり、少なくとも今腕の中で喘いでいる柿狗くんは愛しいと思いながら、次の生放送の事を思案する。
終わり