2尿道カテーテル

 ビニールに包まれた新品の尿道カテーテル。ビニールを破り、片方を柿狗くんに咥えさせる。といっても言うことを素直には聞いてくれないから、口に一箇所穴を空けたガムテープを貼り、そこにカテーテルの先端を突っ込んで無理やり押し込むわけだけれど。
 カテーテルが膀胱まで達すれば尿は勝手に排出されてしまうので、そこで準備を一旦終え、生放送を開始する。
 さすがに性器丸出しではBANされてしまうので、絶妙に柿狗くんのおち○ちんが映らないようセッティングをしておいた。
「前回の生放送ではどうもー。10分間お漏らし我慢できなかった柿狗くんへの罰ゲームです。今柿狗くんが咥えてる尿道カテーテルの先を、柿狗くんの尿道に入れて膀胱からおしっこ直飲みしてもらうよー」
 告知もなにもなく生放送を始めたが、前回を見てくれたらしい視聴者がすぐに集まった。人気者の柿狗くんに嫉妬しちゃいそう。
 コメントには性器が見えそうで見えない、柿狗くんがもう泣きそう、なんて書かれている。
「今日は利尿剤飲ませてないけど、朝8時からトイレに行ってないし、お水ガンガン飲ませたから相当な量だと思うよ」
 適当に解説しながら、僕はカテーテルを入れる準備をする。口に入っても平気なローションを尿道口に塗りこみ、カテーテルの先端を構える。
「あ、柿狗くん動かないでね。口呼吸もしばらく我慢してよ。柿狗くんだっておち○ちんの中傷付いたり、万が一膀胱が破裂したら困るでしょう?」
 カメラに映らないところで、柿狗くんを見上げると涙で滲んだ目を益々潤ませて、蒼白になる。可愛いな。
 柿狗くん、こうなる前に逃げればいいのに、引きこもりなもんだから僕から逃げるという簡単なことさえ出来ない。逃げ場を失くしたのは他でもない自分自身だなんて、背水の陣を敷いた武将みたいで男前。
 まあ、鼻水垂らして可愛いくてしょうがないんだけれど。
「そうそう、いい子だね。我慢してね、すぐ終わるから」
 本で見た知識だけれど、理論はだいたい理解している。男の体の構造上、尿道は途中で上を向き、膀胱へ至る。ゆっくりやれば問題はないはず。
 長めのカテーテルを咥え、恐ろしげに僕の手つきを見つめる柿狗くん。ディスプレイに背を向けているからコメントは見えなかったが、棒読みソフトが音声で読み上げてくれている。
 無機質で音程のない機械音が柿狗くんの事を煽り続けていた。
「入れるよ」
 つぷ。少し開いた穴にカテーテルの先端を差し込む。ローションの滑りもあり、そんなに問題はなさそう。
 しかし、少し進めるだけで柿狗くんは体を跳ねさせた。今回は厳重に腰回り、胸回りも椅子にガムテープで縛り付けているから大きく動くことはない。ただ、あまり暴れられると椅子自体が倒れてしまいそうだった。
 おしっこが逆流するだけでも結構痛いもんね。それを柔らかい素材とは言え、固体が逆流するなんて、反応するなと言う方が無理だ。
 コメントには頑張れという応援が流れていた。頑張りようがないのにね。
「もう少しだからねー、我慢しようね」
 痛いと訴えても止めない、まるで歯医者さんのような物言いに自分自身苦笑してしまう。けれど柿狗くんは必死に堪えているのか、俯き、僕をじっと見つめた。
 引きこもりでニートの柿狗くんに、僕以外の友達がいる由もない。唯一無二の友人にこんなことされちゃって、柿狗くんてば本当災難だね。
「さあ、もう膀胱に行くかな?」
 折り返しもなんとか過ぎて、後は奥まで進めるだけだ。行き過ぎると膀胱を突き破る事もあるらしいから、尿が出て来たら即座に手を止めよう。
 ゆっくり慎重に進めていると、コメントで生放送があと5分で終わると告げていた。しかし焦れば柿狗くんの大事な膀胱を傷付けてしまう。僕は冷静に素早く手を進めた。
「っ……っっ……」
「お、来た」
 柿狗くん自身もなにか感じたらしい。遂に膀胱に達したカテーテルを、薄い黄色の液が通る。柿狗くんの口にまで繋がる管を、するすると昇っていく。
「ああ、ほら、すごい、柿狗くん、飲むんだよ、一滴も零さずに、全部」
 僕は柿狗くんの顎を掴み、口に入っている方のカテーテルを抑えた。結局ガムテープで出口を塞がれているから飲むしかないのだけれど、柿狗くんの事だから口をびしょびしょにしてでも零しかねない。
 コメントでは、自分で吸い上げろと鬼畜な命令もあった。飲尿初心者の柿狗くんに、それは厳しいよ。でも、柿狗くんの大好きなオレンジジュースを飲むみたいに、自分のおしっこを飲んでたら、それはもう最高の動画になること間違いなしだ。
「そうだね、もしも残したり吐き出したりしたら、それも罰ゲームにしなくちゃつまらないよね。ね?柿狗くん」
 柿狗くんは目を見開いて涙を零した。理不尽な勝負に負けてこんな状況になっている柿狗くんだもの、もう罰ゲームは嫌だろうな。
「最後の一滴まで残さず飲めたら、柿狗くんのお願い聞いてあげる。もしも一滴でも残したら、どうしようかな……」
 既に口内に尿が達したのか、柿狗くんは目を閉じて、飲み下し始めた。ごく、ごく、と喉仏が動き、嚥下していく様子がはっきりとわかる。自分のおしっこ飲むなんて普通じゃないよ。そんなに罰ゲーム嫌なんだね。
「そうだ、膀胱空っぽにして、そこに牛乳とイチゴジュースを入れて、柿狗くんの膀胱の中でイチゴオレを作るの。最高じゃない?」
「ぐふっ……ごふっ……っっ……っ」
 僕の言葉か、はたまた鼻につくような臭いの尿のせいか、むせた柿狗くんは鼻から尿を零しながら、それでも必死に飲み干そうとする。
 やっぱり結構な量が溜まっていたらしく、かなり苦しそう。眉をひそめる柿狗くんに、画面の向こうのお客さんも大興奮だ。
 いたずらしたい気持ちを堪えながら眺めていると、ようやく終わったらしい。柿狗くんは吸い出しの終わったカテーテルから口を離し、カテーテルがガムテープの隙間からひょんと出される。
「これで終わり?一滴も残ってない?」
 僕が柿狗くんに伺うと、頭を縦に振って頷く。
「それじゃあ本当に一滴も残ってないか、僕が確かめてあげる」
 僕は柿狗くんのおち○ちんから出ているカテーテルを、まっすぐ縦に伸ばす。カテーテルの先端は画面外に、カテーテルの大部分は画面に映っている。
 僕がちらりと柿狗くんを見ると、柿狗くんは顔面を蒼白にした。その絶望感に満ちた顔、待受にしたい。
 僕はカテーテルの先端に口を付ける。鼻から肺に溜まった空気を出し、一気に吸い上げた。
 じゅちゅちゅぢゅちゅちゅ。
「んぎいいいいぃいいいっ」
 口の中に、アンモニア臭のする液体が届く。
「あーあ、残念だね柿狗くん。どうやらまだ数滴、残っていたみたい」
 視聴者にもカテーテルを通る液体が確認できたらしい。ああー、と柿狗くんを落胆させるコメントが続いたが、柿狗くんは頭を後ろに仰け反らせ、目を白黒させていてコメントはおろか、僕の声も届いていないようだ。
「それじゃあ今回はこの辺で。次回は柿狗くんとイチゴオレを作ります。またお会いしましょう」
 ちゅぷん。柿狗くんのおち○ちんからカテーテルを抜き取ると、何も出るものがないそこは小さく震え、へたりと重力に従った。



終わり