布団の端から顔を半分だけ出して、ぐっすり眠る柿狗くん。そんな柿狗くんの横に、僕も布団の中へ潜り込む。
柿狗くんの体温で温まった布団の中は心地良い。
目の前の柿狗くんの顔を静かに眺めた。
そんなに長くないまつ毛、魅力的とは言い難い乾燥の目立つ唇。漫画や小説なら、こんなシーンでそんな風には思わないだろう。
だって、萌えないじゃない。
けれど、僕は柿狗くんを形作る、一般的で平凡なところさえ愛おしいから、むらむらとしてくる。
薄く開いた唇に、そっと唇を重ねた。
「ん……んん……」
まだ覚醒しきらない柿狗くんの小さな喘ぎが聞こえる。
唇を唇で挟んでふにふにの弾力を楽しみながら、ちゅっと吸い上げる。それから舌を差し込んで、柿狗くんの舌に絡めた。
「は……ん、ん……」
口の中で逃げる舌を追って、奥まで貪る。捕らえた舌を歯で甘噛みし、舌先を舌先で刺激する。
唾液がこぼれて布団に落ちた。
その頃ようやく目を覚ました柿狗くんが、眉をひそめて僕を見つめる。
息苦しさと眠りを邪魔され怒っているみたいだ。
寝返りを打って避けようとする柿狗くんの後頭部を手で押さえながら、動きに合わせて柿狗くんの胸の上に跨り、上から押さえつけるようにキスをする。
これで柿狗くんはもう逃げられない。息が止まるまで唇を重ねたって構わない。
「ん、んむむ……」
混じり合った唾液が口の端しから零れていく。上手く息継ぎできない柿狗くんは苦しそう。
その霞がかった脳に追い打ちをかけるよう、鼻を指で摘まんであげる。
慌てて暴れ出した手の片方を握ると、強く握り返された。もう片方の手が僕を押し退けようとするが、徐々に力が弱くなっていく。
生理的な涙で濡れた柿狗くんの瞳が僕を見た。
駄目だよ柿狗くん、そんな目されると、僕はもっと酷くしたくなる。
吸えない酸素を吸おうと、しゃっくりのように喘ぐ。そこまでいって、僕は柿狗くんの鼻から手を離し、重ねていた唇を離した。
「うっ……げほっげっほえうっ、ひっ、げほ、げほ……は、ぐっ……ひ、ひ……」
泣き出した柿狗くんは、僕を押し退けようとしていた手で、僕の体を叩いた。時々目を拭いながら、僕の体をばしばし叩く。
弱くて、全然痛くない。
もう一方の僕と繋いだままの手が、僕の手に縋る方が胸を締め付けてくるようで、よっぽど痛かった。
「ごめんね、怖かったよね」
目元にキスをすると、完全に怯えた柿狗くんが、ひいっと声を上げた。身体も震えている。
「ごめんね、柿狗くん。もう泣かないで」
顔を横に向けて声を上げずに泣く柿狗くんが愛おしい。
「今度は優しくするから、もう一回キスしよう?怖かったら、こっちの手も握ってていいから」
僕がさっきまで鼻を摘まんでいた手を差し出すと、おずおずと柿狗くんの手が重ねられる。
両手をそれぞれしっかり握り、布団に優しく押さえつける。柿狗くんの小さなバンザイのような姿が可愛い。
横を向いたままの頬にキスを落とし、啄ばむように唇を重ねた。心地良さそうに目をつぶり、身体の震えも止まっている。
重ねるだけのキスを繰り返し、落ち着いたのか、またすやすやと眠り始める柿狗くん。
眠りを覚ますキスじゃなくて、眠りに落とすキスになってしまったね。
後で確認したら、窒息しかけた時にお漏らししていたみたい。お詫びも兼ねて丁寧に後始末してあげる。
そのあとは微睡むような時間をベッドの中で静かに過ごした。
行き過ぎた行為を、お互い忘れようと必死だったのかもしれない。
終わり