49ごはん

 街中で手を繋ぐカップルとか、テレビで流れる旅番組とかを見て、羨ましいと思うのは僕の欲張りなんだろうなあ。
 とても簡単な、だけどとても困難なお願いが、いつか叶えばいいのに。

 最近柿狗くんに会いに行くと、柿狗くんが何も言わず僕のそばに来てくれるのが嬉しい。
 僕のそばと言っても、柿狗くんがベッドで寝ている時にベッドに座ると、起き上がり柿狗くんもベッドの淵に座る程度だ。
 二人の間に人二人分くらい距離があるけれど、目線だけ送ってくれていた頃よりはだいぶ近い距離だと思う。
「柿狗くん、ご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ一緒に食べよっか」
「ん」
 手を差し出すと、何も言わず握り返す柿狗くん。過ぎるほどの甘い空気に、僕はにやけが止まらない。
「きもい……」
 柿狗くんに真顔で言われたので少し悲しくなりながら、それでも手は繋いでくれてるままだから柿狗くんて優しいよね。
 今日のご飯はオムライスだったので、ケチャップでハートを描いてあげると、柿狗くんはスプーンでぐしゃぐしゃにしてしまった。
 だけどハートの混ざったオムライス食べるんだから、僕の気持ちはちゃんと柿狗くんの胃に吸収されるよね。
 それだけで十分だよ。
 今度は柿狗くんにケチャップを手渡す。柿狗くんは一体何を描いてくれるのかな?
「……見んな」
 じーっと見られているのが嫌だったのか、目を手で覆われてしまった。食べる時に結局見るのにね。
 片手でケチャップを出すのに苦戦しているようで、しばらくしてようやく手を外して貰う。
 僕の目の前に出されたのは、やっぱりスプーンでケチャップをぐしゃぐしゃにされたオムライスだった。
「じゃあ、食べよっか」
 二人でいただきますをして、食べ始める。少しケチャップが多すぎてしょっぱかったけれど、柿狗くんがくれたものだから僕は喜んで食べるだけだ。

 二人で手を繋いでどこか旅行したり散歩したいと思うことはある。
 だけど、こうして横に並んでご飯を食べたり、なんとはなしに手を繋ぐ事だって、柿狗くんの部屋の中でも十分に出来る事だ。
 たった六畳の空間で、それでも僕たちはかなり満ちているのではなかろうか。
 口の端にケチャップをつけた柿狗くんを微笑ましく感じながら、そんなことを考えた。