52桜

 すっかり暖かくなったなあ。
「柿狗くん、桜の花持ってきたよ」
 ベッドですやすや眠る柿狗くんの頭に、拾ってきた桜の花を撒いてあげる。落ちていたやつだけれど、花びらが全部揃ってる綺麗なのを選んできたんだ。
 お花の中で眠る柿狗くん、すごいメルヘンチック。写メしておこう。
 パシャ、パシャ。
「ん……なに……」
 目をこすりぼーっと目覚める柿狗くん。
 寝ぼけまなこの柿狗くん可愛い、パシャ、パシャパシャ。
「や、……めろ、」
 柿狗くんの手にカメラを抑えられてしまったので、仕方なく傍によけて、柿狗くんの上に跨る。
 柿狗くんの顔の横に手をついて、柿狗くんのおでこにおでこを当てた。
「どうして?可愛い柿狗くんの写真、いっぱい欲しいよ」
 ほっぺたを両手でむぎゅってしてあげると、少し不細工で可愛い柿狗くんが出来上がる。
 すると、眠たくてそのまま寝ようとする柿狗くん。ほんと、眠りに対して貪欲だねえ。
「柿狗くん可愛い、だーいすき」
 僕の腕を掴んで、うっとおしそうに呻く。
 そんな仕草が可愛いから、もっとぎゅってしてあげたくなるよね。
「ん……動くな」
「ん?」
 柿狗くんに襟を掴まれて動くな、なんて言われたら身動き取れなくなっちゃうよね。
 じっとして待ってると、柿狗くんの手が僕の頭に伸びる。
「ん」
 ぴらっ、と柿狗くんの手に張り付いた桜の花びら。
 どうやら僕の髪についてたみたい。
「お前の頭に春が来てんだな」
 小馬鹿にするようにへらっと笑った柿狗くんにきゅんとなった。
 柿狗くんの周りにも春が来てるのに全然気付いていないし。
「そうだね、外はもう春だよ」
 外に出られない柿狗くんに、僕は春を持って来てあげた。
 でも、手のひらいっぱいに集めた春ではなくて、僕の髪についた春の小さな欠片を見つけてくれる。
 柿狗くんの方が僕よりたくさんのものを見えてるのかもしれない。
「ふぁあ……お前も寝れば」
「うーん……じゃあちょっとだけね」
 全然眠くないけれど、柿狗くんに布団に誘われたら断るわけにはいかないよね。
 柿狗くんの背中側に寄り添い、柿狗くんを抱き締めて目をつぶる。最高の抱き心地と最適な温もりに、予想外にぐっすり眠り込んでしまった。
 すごい安眠効果、柿狗くんなしには眠れなくなるかもしれない。

 あとで家に帰って携帯を確認すると、桜の中で眠ってる僕の写メがあって、いつの間にか柿狗くんが撮ってたみたい。
 自分の写メなんか恥ずかしいなあ、と思いつつ、その写メを柿狗くん家のパソコンに送るなんて作業もしてあったので削除するのも躊躇ってしまう。
 柿狗くんは写ってないけど、撮影する柿狗くんの気持ちが詰まっているようじゃないか。
 お部屋で僕の写メ見てくれてるのかなあ、なんて考えるとますます気持ちが溢れてくるようだった。