59おねしょ

 うとうとと、眠ったり眠れなかったりを繰り返す柿狗くんを抱っこして、ぽんとぽんと一定のリズムで背中を叩いてあげる。
 もう、かれこれ一時間。
 ことは、僕が柿狗くんの部屋に訪れる前から起きていた。
 僕が柿狗くんの部屋の扉を開けると、珍しくベッドで起き上がっている柿狗くんが目に入る。いつもまだ寝ている時間だけど、目が覚めちゃったのかな?
 しかし、どうにも様子がおかしい。
「おはよー、柿狗くん、どうした?」
 俯いた柿狗くん、ぽたぽた布団を濡らすのは、柿狗くんが零した涙だった。
 どうしたの、と手を伸ばそうとすると手を弾かれる。
 え、またー?
 どきっとしながら柿狗くんを見ると、頭を振った。
「さわんな、くんな、あっちいけっ」
 柿狗くんは布団をぎゅっと抑えている。
 布団の中見て欲しくないんだね。
「柿狗くん、大丈夫だから」
 また柿狗くんに触ろうとすると柿狗くんの手に弾かれたから、そのまま柿狗くんの手を掴んだ。反対の手が僕の胸を押すから、それに手を重ねる。
 目線を合わせて、落ち着くまで待つ。
「大丈夫だから。ね、僕に話してよ。どうしたの」
「……う……ううう……」
 ありゃりゃ、ますます泣いちゃったねえ。僕は柿狗くんを抱きしめて、好きなだけ泣かせてあげることにした。
 ようやく涙が収まった頃、僕はもう一度柿狗くんに優しく聞いてあげる。
「どうしたー、柿狗くん。僕に教えて」
「………おしっこ」
 酷く言い辛そうに小さく言う。
 注意しないと聞き漏らしそうなほどの小さな声だった。
 おしっこ……?うん、と……。
「……も、……もれ……ちゃ……ひっひく……」
「あー、わかったわかった、うんうん、そっかそっか」
 また泣き出しちゃったから、これ以上言わなくていいように僕が言葉を遮る。
 つまりどうやら、おねしょをしてしまったらしい。今まではおねしょ、しなかったからね。
 したとしても僕が無理やりベッドの上でさせてたことだしね。本当におねしょをしてしまって、ショックだったんだろうな。
「いいよ、柿狗くん泣かなくて。柿狗くんのせいじゃないから」
 ぽんぽんと背中をたたくけど、柿狗くんは僕の胸で頭を横に振った。
 仕方ないか。
「あのね、僕のせいだよ。柿狗くんに内緒にしてたけどね、昨日の夜あげたお水に利尿剤入れてたの」
 柿狗くんの動きがぴたりと止まった。僕の言葉、ちゃんと聞いてるみたい。
「だからね、僕のせいだよ。ごめんね、おねしょしてる柿狗くんが見たくて」
 柿狗くんはぽすん、と僕を一回叩くと、もう少しだけ泣いて、気が済んだみたい。
「お風呂入ろっか、すっきりするよ」
 目が腫れた柿狗くんを痛々しく思いながら、お風呂へ。
 後片付けも全部して、またベッドに入るけど柿狗くんはよく眠れないらしい。僕もベッドにあがり、抱っこしてあげる。


 そっか、おねしょしちゃったか。
 今度からは寝る前に、ちゃんとトイレ行かせてあげた方がいいかな。成人男性のおねしょって、そんな珍しいことでもないらしいけど。
 でも、柿狗くんが気にするなら。
 僕はおねしょする柿狗くんだって、大好きだ。だけどおねしょが怖くて眠れない柿狗くんは、可哀想だものね。
 僕の嘘は、柿狗くんも気付くから。