74外出

 ここのところ忙しいのが続いて、柿狗くんに会えない日々だった。夜も残業が続き、朝は早い。時には会社に泊まることもあったし、土日に仕事を持ち帰ることもある。
 今は大事な時期だから仕方ないのだけれど、柿狗くんに会えない事は僕の想像以上に心的ストレスとなっていた。
「柿狗くんに会いたい柿狗くんに会いたい柿狗くんに会いたい柿狗くんに会いたい」
『それ俺じゃなくて柿狗に言ってやれよ』
「無理だよ、今柿狗くんの声聞いたら仕事放り出して柿狗くんに会いに行っちゃうもの。あー柿狗くんに会いたい柿狗くんに会いたい柿狗くんに……」
『ちょ、もう呪詛みたいだからやめろって』
 柿狗くんに会いたい。
 仕事中には頭を切り替えられるものの、仕事を終えるとそれしか考えられなくなる。
 あともう少し頑張ればこの鬼みたいな忙しさも終わるのだけれど、柿狗くんに会いたい気持ちは増す一方だ。
『メールぐらいしといてやれば、あいつもそんくらいは読めるだろ』
「んー、そうする……じゃあ切るね」
『ああ、あんま無理すんなよ』
「それは無理と言うもの……」
 古佐治との会話を終えて、柿狗くんにメールを送る。柿狗くん禁してた時以来一度も使っていなかったけれど、柿狗くん気付いてくれるかな。
『柿狗くん、会いにいけなくてごめんね。今週過ぎれば土日には行けるから。柿狗くんに会いたいよー……それじゃあ、おやすみなさい』
 携帯に入っている柿狗くんの写真を眺めながら、僕は目をつぶった。


 特に柿狗くんからの返信もないまま、いよいよ土曜日になると僕は高熱で倒れてしまった。無理がたたったらしい。
 せめて柿狗くんにメールくらいしておきたいけれど、起き上がることも身体を動かすことも出来ない。ダメだ、今日はもう寝よう。
 意識を飛ばすように、土曜日は寝て過ごした。明日になって少しはましになっていればいいなあ。
 そうして目覚めた日曜の朝、チャイムの音で目が覚める。
 ピンポン、ピンポンピンポン。
 そんな連打しないでよ、もう。一体誰だろう?古佐治かなあ。
 病み上がりのぼーっとした頭で玄関まで。鍵を開けて、扉をそーっと開く。
「……っえ、」
 そこに立っていたのは、いつものスウェットから一応外行きに着替えた、少し顔色の悪い柿狗くん。
 目に涙を溜めて、ふらふらと僕の方へ。
「か、柿狗くん……」
 ぼすん、と頭を胸に押し付けられ、僕は少しよろめきそうになる。
 嘘、夢?
 幻?
 だって、だって柿狗くんは、だって……。
「き、きもちわる……おえええ」
「お、おう……」
 僕の寝巻きに吐瀉された、このすえた臭い、サンダルを履いた足にかかる熱、現実だ。
 このゲロを吐く柿狗くんは、本物なんだ。
「柿狗くんっ……!!」
「う、おえええ……」
 柿狗くんを抱きしめると余計吐かれた。
 ゲロにまみれた僕と柿狗くんは、仕方ないのでお風呂に入る。
 柿狗くんの顔色はまだ思わしくないけれど、お水を飲んで少しは落ち着いたようだ。柿狗くんの頭を洗い、身体は泡をつけた手で直接撫でてあげる。
 ああ、柿狗くんだ。
 柿狗くん。
 柿狗くん!
 柿狗くんの後ろに座り、胸に手を伸ばす。密着しながら、胸の尖りを中心に擦り洗う。
「ん……」
 僕に身体を預けて、気持ち良さそう。脇から胸、胸からお腹、お腹からおちん○んへと、手を移していく。
 竿を握り、泡をつけた両手でにゅるにゅる上下に動かすとすぐに硬くなった。
「あ……あ……」
「柿狗くん自分でおちん○ん触らなかったの?」
「ん……」
 こくこくと頭を縦に動かして、気持ち良さそうに喘ぐ柿狗くん。じゃあ結構溜まってるよね、僕もいっぱい溜まってるんだ。
「はあ……あっ、あっ、んんっ、あ、」
 亀頭を擦ってあげると柿狗くんの身体がビクビクと震えた。
 目をつぶり、僕の肩に頭を乗せて仰け反る。おちん○んを扱く僕の手にそっと添えられた柿狗くんの左手に鎮座する指輪が、きらりと光を反射させた。
 股間の昂ぶりとは別に、心臓からドッと血が流れ溢れ出した熱いものが身体中を巡る。
 僕は柿狗くんの左手を取り、柿狗くんのおちん○んに導いてその上から手を重ねた。ゆるゆると動かしてあげると、柿狗くんが手を自分で動かし始める。
「あ、ああ……は、あー、ああっ、ああ」
 一際高く鳴いたあと、おちん○んの小さな穴から白濁が吐き出される。
「はあ、はあ……はあ、ああっやだ、あっ、んんーあっ、っあああっ」
 イったばかりの亀頭を指の腹で擦り続けると、柿狗くんは泣きながら頭を振った。連続して与えられる刺激に喘ぎが止まらない。
「あーーっあっあっんんあっああーっ」
 ぴゅしゅっぴゅぴゅっ、びゅーっ。
 透明な、おしっこでも精液でもないものが噴き出すと柿狗くんは身体を弛緩させた。追って、ぼじょぼじょとおしっこを漏らす。
 はあはあと荒い息をする柿狗くんに、僕は愛しさが溢れる。頬に、首に、キスをしてから柿狗くんをシャワーで流してあげた。
「疲れたねー、湯船浸かろうか」
 僕もさっと汗を流して、柿狗くんの脇に手を入れて立たせてあげる。僕が先に湯船に浸かり、僕の膝に乗るよう柿狗くんの手を引く。
 柿狗くん湯船に浸かったら、そのまま寝ちゃいそうだものね。僕によりかかり、気持ち良さそうに目をつぶっている。
「柿狗くん今日は頑張ったね、一人で僕の家まで来てくれたの?」
 重ねた手をにぎにぎしながら柿狗くんに聞くと、柿狗くんは小さく頭を縦に振る。
 10年以上家を出なかった柿狗くんが、家から一歩踏み出すのにどれだけ勇気がいったことか。
 本当はその場に居てあげたかったのに、柿狗くんは一人で頑張れたんだね。それを思うと嬉しくて、寂しくなった。
 閉じこもっていた柿狗くんはもういないのが、喜ぶべきなのに僕は寂しい。
 どれだけ柿狗くんを独占したかったんだろう、僕だけの柿狗くん、社会的に死んだ柿狗くん。
 僕の醜さが噴出する。
「……俺だって……」
 柿狗くんの手が僕の手をぎゅっと握る。柿狗くんが勇気を出すとき、いつも僕の手を握った。それがわかるから、僕は「頑張れ」という気持ちで手を握ってあげる。
「俺だって……お前に会いたい……」
 呟くようにいった柿狗くんの言葉に胸が熱くなる。
 柿狗くんはすごいよ。
 柿狗くんは僕の欲しい言葉を、僕が欲しいものをくれる。
 家を踏み出した勇気の根底に僕がいたって教えてくれる柿狗くんに、僕は涙が頬を伝うのを感じた。
 僕は当たり前の事が見えないし、勇気を出すことの出来ない弱虫で、小さくてダメな奴だ。
 考え出したらきりがないほどの弱い僕にたくさんの事を教えて、僕を救い上げてくれた。
 感情がたかぶって涙がぽたぽた湯船に落ちて止まらなくなる。
「柿狗くん、好きだよ、大好き、愛してる……伝わる?ちゃんと伝わってる?」
「俺だって……す、好きだ、よ、……ばか、ばかばかばか」
 誤魔化すように柿狗くんは言うけれど、絞り出して言ってくれた言葉に僕は嬉しくてたまらない。
 柿狗くんの身体を抱きしめると、柿狗くんは静かに僕の腕の中に収まった。


 柿狗くんのベッドより大きい僕のベッドで、いつもよりぎゅっと抱きついて2人で横になる。
 勇気を出した柿狗くんに、今度は僕が勇気を出す番だ。
「柿狗くん、一緒に暮らそう。二人で、ずっと一緒にいよう」
「ん……」
「柿狗くん大好き」
「ん……」
「……眠い?」
「ん……」
 素直な柿狗くんに笑いながら、ぎゅっと抱きついてうなじにキスをする。
「じゃあもう寝よう。明日目が覚めても、もうずっと一緒だから」
「……」
 僕が言うより早く眠ってしまったらしい。
 僕はドキドキが治まりそうになかったのに、柿狗くんの背中から感じるトクントクンという心音に促されて眠った。