左手が動かないのは、死後硬直だとかだと思ったがどうやら違っていた。しっかりと握られていることが原因らしい。
胸の圧迫感は呼吸器に問題があるのかと思って目を開けば、真っ黒の頭が見えた。
大学生とは言え成人した立派な大人が、よだれまで垂らして。あんた何やってんだ。爆睡していたのは兄貴だった。
また、兄貴。
もう死んだかな、と思ったが俺はまだまだ生きている。ま、あと一週間あるしね。
息を吸うとむせて咳が止まらなくなった。そのせいで兄貴が目覚める。
「平気か双海……ゆっくり、息吸え」
兄貴に向けた背中を撫でられ、それでも涙が出るまで咳は止まらなかった。
「真崎くんが救急車と俺に連絡くれたんだ……後でお礼言わないとな」
吐きそうなほど咳き込んで、ようやく止まった頃には喉が痛かった。
「……真崎は?」
「朝来てくれたんだけど、部活があるからまた来ます、って。いい子だな」
ほんといい奴。いつまで、友達でいてくれるのかな。
「俺、死ぬの?」
ごろんと仰向けに寝て、兄貴に聞く。
見慣れない天井。当たり前か、病院だし。
「はぁ? ばーか、ただの栄養失調だよ」
まったく、金はあるのになんで食べ物を買わないんだか。兄貴がぶつぶつ言ってる。
栄養失調か。昨日食べたのに。
「つか、死ぬとか言うなよ」
「なに、心配してんの?」
「当たり前だろ、兄弟なんだし」
俺も親も泣かせるなよ、そう言って兄貴は俺の頭を撫でた。
俺が何してるのか知られたら、親を泣かせるよな。きっと。
「今まで、放っておいたくせに」
「……ごめんな」
俺の呟きに、同じくらいぼそっと呟いた。
何もかも遅すぎるんだよ。
俺の余命も、あと僅か。