腹が空かない。だから、無理矢理起こされ目の前に出された朝食を見ても、俺は嫌な顔しか出来ない。
「あなた何で入院したのかわかってるの?」
お節介な看護師に内心悪態を吐きながら無理矢理、それでも二口くらいしか食べれなかった。
そんな、大いに残された食器たちが返ってから、現れたのは真剣な顔した真崎だった。足りない栄養を補うための点滴が足枷となって、逃げ出せない。
真崎がベッドサイドの椅子に座る。
「本当は昨日、部活帰りに来るつもりだった。でもあんとき、長谷の家にいた奴らに会って、気付いたら殴り合いになってた。学校にバレて謹慎と無期の部活停止処分くらったけど、屁でもねーよ。あ、自分のせいで、とか思うなよ。俺が勝手にやっただけだから」
そこまで一息に言うと、一つ深呼吸して俺を見据える。
「だから、何がどうなってんのか、話に来た」
今までのは前置きなのかと思うと笑えた。
気にすんなって言うけど、もろ俺のためでしょ。
なぁ、俺のために動いてくれた友達が出来たって、喜んでもいいだろ?
「長谷はずっとさ、あーゆうのされてたのか?」
少し無神経でストレートな問いに、俺はただ頷いた。言い訳の仕様もない、嘘をつく理由もない、紛れもない真実だから。
「いつから?」
「6月くらいからかな?」
「ろ、く月……から、ずっと?」
「ずっと、だよ」
真崎が驚いてて、そんなの当たり前だけど、やっぱり、悲しかった。
真崎はどう思う?気持ち悪い?情けない?
俺に関わったこと、後悔する?
「抵抗とか……抵抗、しなかったのかよ?」
俺はなんだかもう、泣きたい程嫌だった。
「しないと思う? 逃げもしないで、好きで、ヤられてたって、思う?」
「誰かに話すとか……」
「誰に? 男に犯されましたって? 男が男に一年間ずっと強姦されてましたって、真崎言えんのかよ?」
静かに俺の怒りが爆発する。顔が上げられなかった。沈黙が続く。
「友達に犯されましたなんて、もう誰に話せばいいのかわかんねーよ」
俺の声は、泣いていた気がした。
「俺に……」
小さく、それでも俺には届いたよ。
「真崎の反応は普通だと思うよ。男に犯されるなんて、普通あり得ねーもん。だから真崎にわかんなくて当たり前だよ。てか、そんなのわかってほしくないし。俺たちって、ちゃんと話したのここ二週間ぐらいだろ。それでもこんなこと話せるの、真崎だからだよ」
もう過ぎたことを、飲み込んで忘れかけていた怒りを真崎にぶつけたかったわけじゃない。
「ごめんな、こんな話させて」
独り言みたいに呟いて、それが真崎にどう伝わったかはわからない。
真崎は一言、ごめんと言って帰った。