1日の終わりが嫌いだった。目をつぶるのが怖いからだ。
目をつぶるのが怖いのは、目を開いた先の現実が怖いからだった。
夢はほとんど見なかったけれど、目が覚めたらまたあの嫌な1日が始まると思うと、そのまま目をつぶっていたかった。
このまま死んでしまいたいと、何度も思った。
今も怖い。目を開いたら、先輩とかがいるかもしれない。本当は気絶しただけで、アノ最中だったのかもしれない。
目を閉じた世界と、目を開けた世界は、全く別の世界で、だから怖い。
目を開けると、自分のじゃない誰かの手があった。
背中に感じる暖かさだとか、頭の後ろに息づく感じだとかで、俺は誰かに抱き締められているとわかる。
「おはよ」
俺が起きたことに気付いた声が、俺に言う。なぜだか涙が出てきた。
「……はよ……」
ただの挨拶が無性に嬉しいのに、声の出し方がうまくいかないで、変にかすれた声になる。
そこにいるのが真崎で、安心したんだと今気付いた。
「ごめん、朝ご飯まだ出来てないや」
ごめんな、と、俺の家なのにご飯を作ろうとしていて、出来てないことに謝った真崎が妙に笑えた。
「長谷……ずっと震えてたから」
優しい言葉に、あったかくなるのを感じた。
だめだ。目頭が熱くて、涙が止まらないんだ。
「嫌だったら、言ってな」
こっち向いて、と真崎に言われ、背中を向いていた真崎の方に寝返りを打つと抱き締められた。
「っあ……」
「平気か?」
一瞬身体がこわばる。それを溶かすように、真崎のどくん、どくんと言う心臓の音が俺を落ち着かせる。
顔を押し付けられた真崎の胸に涙が染みる。
「長谷……今からでいいなら、お前のこと助けたい」
おれに頼ってよ、長谷。
俺は頷けなくて、そんな俺に真崎もなにもいわず、しばらくそのままだった。
真崎、だめなんだ。辛くて仕方なかったんだ。やっと死にたいと思えた。
あと4日で死ねるんだよ。なのに、そんなに優しくされたら。
生きたい、と、思ってしまうから。
真崎のことは信じたい。だけど、俺は困ってしまう。
はっきり答えられないまま、夜になった。
真崎は優しかった。多分、普通の高校生の友達みたいに、紳士みたいなんかじゃないけど、優しかった。
人がこんなに温かいと思ったのは初めてだった。
夜になると兄貴が帰ってきて、入れ替わりに真崎が帰った。2人は俺のことを、守ってくれているのだろうか。