10時くらいに目が覚める。
リビングには朝食と、食べるように、との置き手紙。適当につまんで、一昨日から放置されていた携帯を見る。
夥しい量の着信とメールに気持ち悪くなり、俺は吐いた。
もう俺はダメなんだ。
それが少し嬉しくなった。
日に日に睡眠時間が延びている気がした。最期の日は、起きることなく永眠出来ればいい。
少し楽しくなった。
がちゃがちゃ、ばたん。
「淫乱の双海く~ん」
「優しい先輩たちが犯しに来てあげたよ」
「ぎゃははは」
あいつらだ。合い鍵でドアが勝手に開けられ、勝手に上がり込む。
諦めたのに、嫌だった。
俺は怖くなって、携帯だけを握りしめ、布団にくるまってただ待った。あいつらが帰るのを、待った。
「あれぇ? どこにいるのかな!」
ごすっ。
「ははっ、マジありえねーから」
「かわいー。何これミノムシ~?」
どす、ごんっ。
「早く出て来いよ!」
俺の唯一出来る抵抗を笑われる。布団越しだから、余計に容赦なく蹴られた。腰や背中を強く蹴られ、それでも布団の端っこを持つ手は放さなかった。
もう死ねるんだって諦めたはずなのに、俺はまた怖くなって恐ろしくなって、もう消える予定の俺の命を俺はまだ守りたくなって。
こんな俺に戻したのは、真崎なんだよ、
「助けて」
くれるんでしょ、なあ、真崎、こんな俺だけど、頼っていいのかな。助けて欲しいって、願っていいのかな。
指が震える。一瞬ためらって押した送信ボタンが、完了されるまでの時間が永遠に思えた。
蹴ることに飽きた先輩たちに力付くで布団を引き剥がされる。
「手間かけさせやがって」
腹を中心に蹴られて、疲れた俺はうずくまったまま脱力した。
このまま、今すぐ。
がたがた、ばたん!
「お前ら……」
それは。
「もう長谷に関わるなって言っただろ!!」
それは、
「ざけんな死ね」
真崎の怒声と、先輩たちの怒声と、殴り合う音と、それからしばらくして静寂が訪れる。
そっと優しく触れるのは、誰なの。
「遅くなって、ごめん。俺の家行こう、長谷」
その日俺は、真崎の家に泊まる。だけど、いつまでも眠れない俺を真崎は昨日と同じく、抱きしめた。
真崎は優しさを俺に与え続ける。心臓の音と、子供をあやすみたいに優しくぽんぽんとされた、それは昔感じた懐かしさで。
「俺、死にたかった」
届くか届かないか、わからないような声で呟いた。