明日が今日になっていたらしい。
「今も、死にたい?」
一瞬沈黙して、真崎の優しくたたく手も止まって、それから真崎が言った。
聞いてほしい気持ち半分、聞かれたくない気持ち半分。
嘘、俺は、話したかった。
「今は、わからない」
生きたい、死にたいと、俺は強くは思えないでいた。
死んでしまったとしても、死に損ねてしまったとしても、俺の中ではそれで終わりなんだと思う。
「俺は長谷に、生きて欲しい。俺と一緒に、生きて欲しい」
真崎の腕に力がこもる。俺は嬉しくて。
「俺、痛いの嫌なんだ。男とセックスだってしたくない。友達だっていなくなって。毎日毎日、怖いんだ。その内自意識過剰みたいに、あいつもそいつも俺を犯そうとするんじゃないかって、そう思うのも嫌で。嫌なんだ」
声が震えそうになるのを、必死でこらえた。
「でもどうしたらいいかわかんなくて。なんかもう取り返しつかなくて。考えることもできなくて、そしたら、気付いた。俺が死んだら、全部終わるんだよ。俺さえ死ねば、もう終わるんだよ」
「全部」
言葉にしてみれば、そうだったのかと俺自身わかっていなかったことを、今やっとなんとなくわかった気がした。
後付けの理由かもしれないけど、それでよかった。
俺はだから、死にたいんだ。
「長谷……」
「真崎、世界には俺なんかより辛い人間いっぱいいるんだろ。だから俺が辛いなんて思ったらダメなんだよ。だから俺、生きてたじゃん。だけどもう、ダメなんだ」
もういいだろ、って。やっと思えたんだ。
「死にたいんだ。生きたくないんだ。ダメなんだよ……もう……嫌なんだ」
他人と比べるつもりなんかない。他人より俺はシアワセだとかフコウだとか言うつもりはない。
だけど俺は、ジイシキカジョウのヒガイモウソウだ、って笑われたくなくて。
「長谷が辛いなら、辛いんだよ」
真崎の声が、震えている気がした。
「頑張ったんだろ、1年間も、耐えて、生きてきたんだろ」
きゅっ、と真崎の腕の力が強まる。
「長谷が辛いんなら、それでいんだよ……辛いって思ったから、俺に頼ってくれたんだろ? 長谷、メールくれたじゃん! 助けてって。俺は、長谷のこと、助けたい。護りたいんだ」
俯いていた顔を上げると、真崎の目が真っ直ぐ俺を見ていた。多分、ずっとそうだったんだと思う。
「今は長谷のことが愛しい。長谷に、死んで欲しくない」
今朝のことを思い出すと、顔がにやけてしまう。愛しいってつまり、どういうこと?
それから、真崎の作るご飯を食べて2人でゲームをして遊んだ。
携帯の電源は消したまま、真崎の携帯から兄貴に連絡を入れた。真崎と兄貴は連絡先を交換しておいたらしい。
昼にはいいともを見て、ごきげんようも見た。
真崎が出かけると言うので俺も一度帰ることにした。
真崎が心配してくれて、俺も不安はあったけど、なんとなく平気な気がしていたから、俺は平気だと言った。
平気だよ真崎、俺はまだ死なないから。だけど少し、1人で考えてみたいんだ。
平気だよ。今日はまだ、29日だから。
俺の家には、この一年間がどれだけ嫌な日々だったかしか思い出せなかった。学校で犯されて逃げ帰ってきたのに、家でも同じことが行われた。帰りたいと俺は確かに思ったのに、俺の帰りたい場所なんかじゃなかった。
助けを求めたいのに、求める相手も見つからなくて、だけど、諦めるのにこんなに時間がかかった。
俺は、リビングのソファーに横になって、これまでのことを思い出しながら、いつのまにか眠りについた。
明日死んでいても、俺は――……